イベント

偏微分方程式セミナー: 曲面上の非圧縮流体方程式に対するKillingベクトル場を用いた幾何学的アプローチ, 清水 雄貴

2019年517日 開催

開催日時

2019517 1630 2019517 1800

場所

北海道大学理学部3号館3-309

講演者

清水 雄貴 氏 (京都大学)

Euclid空間上の非圧縮流体運動の定式化の歴史は古く,Euler(1755),Navier(1822),Stokes(1845)の時代まで遡る.これに対し流体方程式のRiemann多様体への一般化はArnold(1966)やTaylor(1992)らにより比較的最近になって行われた.Riemann多様体上の非粘性流体方程式であるEuler–Arnold方程式は流れ場の体積保存微分同相群上の右不変計量が生成する測地線方程式として定式化され,これにRiemann多様体上の変形テンソルの発散を粘性項として加えることにより,粘性流体方程式であるNavier–Stokes–Taylor方程式が導出される.一方Euclid空間上のNavier–Stokes方程式の粘性項がLaplace作用素を用いて表されることを鑑みて,Laplace作用素のRiemann多様体への一般化であるHodge LaplacianBochner Laplacianを粘性項とする粘性流体方程式もまた考えられる.以上のRiemann多様体上の粘性流体運動に対する数理モデルの相違点を考える上で,それぞれの粘性流体方程式の定常解であって,Euler–Arnold方程式の定常解でもあるベクトル場は重要な視点を与える.なかでもRiemann計量を保つベクトル場として定義される,Killingベクトル場はEuler–Arnold方程式とNavier–Stokes–Taylor方程式の定常解であって,残り二つの粘性流体方程式の定常解にはならない.

以上を踏まえ本研究では,流体方程式が生成し,Killingベクトル場に付随する力学系に関して考える.特に曲面にKillingベクトル場の存在を仮定することで,曲面上の流体方程式の厳密解を用いた理論解析を行い,曲面上の流体運動が流れ場の幾何構造によってどのような影響を受けるかを考える.本講演では,はじめに各粘性流体方程式の方程式論的差異について,その粘性零極限で保たれる定常ベクトル場の観点から概説したのち,多様体への一般化に伴い複雑化した,発展方程式の計算を幾何学的に見通しよく行うために,Killingベクトル場の軌道を用いて,空間大域的に定義される解析的一意化座標を構成する.最後に構成した座標を用いて,曲面上の流体方程式に対する厳密解を用いた理論解析を行う上で不可欠な流体力学的Green関数の解析表示を導出する.

世話人:黒田 紘敏、浜向 直