分野紹介

代数学

代数というとどんなイメージが浮かぶでしょうか?

高校数学の中で相当する内容をあげれば, 数と式に関係する部分となるでしょう. 数や式は足したり引いたりかけたり割ったりすることができます. 高校数学では数や文字式の四則計算について様々な現象を学びます. では数でも式でもないモノたちの間に, 足し算や掛け算などを考えることはできるのでしょうか? この疑問は抽象的な代数への入り口と言えます. 代数は「数」と「式」を様々な対象に置き換え, 加減乗除を対象の間の演算という形で捉え直して(抽象化して), そこから生じる様々な現象について研究する分野ということができます. 数の集まりや式の集まりに四則演算が定まるように, 演算をもったモノの集まり(集合)を代数系と言います. 積が定義された集合である群, 積および和が定義された環, これら二つは最も基本的な代数系です.

数や文字式の代わりに代数系を考えるというのは, 単なる抽象化というわけではなく, 具体的な問題に対して多くの成果を挙げてきました. 例えば2次方程式が解の公式を持つように3次, 4次方程式も解の公式を持ちます(その形は大変複雑ですが). しかし5次以上の方程式には一般には解の公式がないことが知られています. なぜ解の公式があったりなかったりするのでしょうか? 実は方程式に解の公式があるかどうかという問題が, 根の間の対称性に関する群の構造に関係していることが明らかになっています(ガロア理論). ガロア理論は大学の3~4年の講義で扱いますが, 多くの数学者が理想としている美しい理論です. 代数と言う分野は, 「整数」「方程式」「対称性」などの数学における基本的で素朴な対象に対する好奇心と, 幾何, 解析や物理などの他分野から要請に応える形で, 20世紀に大きく発展しました.

北大の代数系グループでは多岐にわたる研究が展開されています. いくつかキーワードを挙げると, 多項式で定義された図形や整数の性質を調べる代数幾何学, 数論幾何学. 他の多くの分野(微分方程式論, 解析学, 幾何学, 組合せ論や物理学)との接点を持つ, 代数解析学, 特殊関数論, 可積分系, 表現論, 頂点代数, 超平面配置などです.

これらのテーマは独立したものではなく, 互いに影響し合って発展しています. 不定期に開かれている「表現論セミナー」「群論セミナー」「代数幾何セミナー」「数論幾何セミナー」「組合せ論セミナー」には多くの教員, ポスドク研究員, 大学院生が参加し, 内外の研究者の最新の研究成果について, 活発な議論が行われています.

幾何学

幾何学はモノの形をはかる学問です。こう書くと「モノ」とは何か,「形」とは何か,「はかる」とは何か,という疑問がすぐにわくでしょう。

ここで「はかる」ということは「モノの形」に対して,その特徴を表す量を取り出すことを意味します。解析学,代数学から物理学まで,いろいろな分野の最先端の研究成果を踏まえた新しい量が提案され,その量が本当に「モノの形」の特徴をよく表しているのか,実際にどうやってその量を計算すればよいのか,などが検討されています。

そもそも,「形をもつモノ」というとき,みなさんは何をイメージするでしょうか。三角形や曲面はもちろんのこと,わたしたちは,物理現象や実際に目に見える複雑な図形から,方程式の解の集合,群,情報など様々なもの (とそれらがもつ構造) をその対象と考えています。各スタッフのページでは,実際に何を対象として研究しているのかをご覧いただけるでしょう。位相幾何学,代数幾何学,微分幾何学,特異点論,数理物理学など幅広い分野をカバーしています。

わたしたちは,このように多様性を保ちつつ,協力しあうことによって研究を進めています。それを通して,今まで認識されていなかったモノが見えてきたり,形をはかる新しい道具が手に入ったときには,研究の喜びを感じることができるのです。幾何学の知恵をいかせる場がいたるところにあることを信じています。

解析学

解析系グループでは以下の分野の研究を行なっています。

偏微分方程式論

例えば流体力学の基礎方程式やプラズマ現象,結晶成長現象を記述する方程式などでは非線形偏微分方程式が現れます。これらの方程式の局所解の存在・一意性,大域解の存在,解の漸近挙動,滑らかさ,特異性を調べることが大切です。非線形ゆえの宿命で,比較的個別にそれぞれの問題を研究しなければなりませんが,時として驚くべき構造が方程式に隠されていることもあります。このような偏微分方程式の研究において重要な手法となるのが,関数解析と実解析です。

関数解析学

関数の集合の成す空間の解析を行なう分野であり,微分方程式や積分方程式あるいはフーリエ解析との関連で発展してきました。現在では関数解析は解析学の基本であり,不可欠な道具です。量子物理とも密接に関連しており,非可換確率論や作用素環論という形で現在に引き継がれて研究が行われています。

非可換確率論

ニュートン力学などの古典理論と異なり,量子物理においては物理量が非可換であり,かつ確率が本質的となります。量子物理における確率論は通常の確率論には収まらないので,新しい数学が必要となります。それが非可換確率論です。関数解析を基本とし,確率論,複素関数論,組合せ論,表現論などの分野が絡んできます。

作用素環論

位相を備えた代数のことであり,C*環論とvon Neumann環論の二つが代表的です.無限次元非可換環が興味深い対象です.作用素環の研究は他分野,例えば,離散群論,エルゴード理論,量子群論,統計力学,代数的場の量子論,量子情報理論など,実に多岐に渡る応用があるのも魅力です.

数理物理学

場の量子論や凝縮系物理学,量子情報科学の研究が行われています。これらの数理は多方面にわたり,数学のほとんどの分野が関連してくるので,それを厳密な方式において窮めるにはいろいろな数学が必要とされます。これは関数解析や確率論のみならず,幾何学やトポロジーあるいは数論とも関連して研究されています。

複素解析学

複素領域やリーマン面と呼ばれる曲面上の有界正則関数全体の性質と構造が研究されています。複素領域を定めるとその上で有界正則な関数全体が定まり,この関数全体の集合は各点毎の演算 (和・積・スカラー倍) をもち,一様収束で閉じています。この関数全体の構造を調べると,はじめの領域や曲面の幾何的構造を復元できることがあり,これらの構造を調べると数学的に等価な対象の異なった側面が見えてきます。また関数解析との関連では,ハーディー空間とその応用が研究されています。単葉関数についてのビーベルバッハ予想は作用素論を用いて解決されましたが,ハーディー空間と作用素論の相互作用が研究されています。

実解析学

関数の詳細な振舞いを扱うためには,フーリエ解析に基づく実解析的手法が重要であり,これは偏微分方程式の解の研究にもよく用いられます。また関連してウェーブレットが研究されています。ウェーブレットとは1985年に発見された関数列で,これを用いて関数を展開することにより, 関数の局所的な性質をより深く調べることができるようになります。

代数解析学

解析的な対象をコホモロジーや導来圏等の代数やカテゴリー論の手法を用いて研究する分野です。ここには,例えば,偏微分方程式系を偏微分作用素に関する連接加群として捉えるD-加群の理論,特異性を余接空間上で分解することで詳細に捉えることを可能にする超局所解析の理論等,代数解析のみならず数学全般で広く用いられるようになった理論や概念が幾つもあります。現在も,enhanced sheavesの理論による不確定特異点型極大過剰決定系に対するRiemann-Hilbert対応の構成など大きく進展しています。

大域解析学

「曲がった空間」であるリーマン多様体の上に定義される2階の楕円型微分作用素「ラプラシアン」が織りなす解析学と空間の幾何の関係をあきらかにすることが目標です。スペクトルや量子状態の一意性問題,調和関数のリュービル性,空間内を動く粒子の長時間挙動といった,空間がもつ重要な大域的性質が新しい視点と概念をもちいて研究されています。

数理科学

数学はとても魅惑的でミステリアスな学問です。数学は古い歴史を持つと同時に常に時代の先端をも切り開いてきました。数学は古代エジプト以来,常に人類社会の構造の変革をけん引してきたという歴史があるのです。土地の区画整備を厳密に行い都市計画を綿密に行うことは,幾何学や解析学とともに進化してきました。また数という概念の発明や物事を分類することで事物を認識する方法は,代数学の発展と共に進化してきました。

数学の中で,諸科学と密接に結び付き,人の認識能力の限界に挑むことで人類の福祉と発展に寄与する領域が応用数学であり,広く数理科学と呼ばれている分野です。例えば,ジョージ・ブールは思考とは何かを考え,ブール代数を創始しました。アラン・チューリングは同様に思考とは何かを考え,計算機械の原理を数学的に定式化しました。これがフォン・ノイマンによるデジタル計算機の発明につながりました。現在のインターネット社会もポール・エルデシュのランダムグラフ理論に端を発しています。このように情報革命は数学によってもたらされました。さらに近年では,高度な物質材料に関する研究や医療に関する様々な基礎研究においても,数学の関与によって飛躍的な進展が見られるようになりました。

したがって現代社会においては,科学と技術の発達や社会・政治・経済構造の複雑化・多様化に伴って生じた様々な問題を,数学的に解決できる応用数学分野での人材育成が課題となっています。
北大の数理科学系では,このような応用数学に関する国際的な潮流を早くから取り入れ,フロンティア精神のもとに応用数学,数理科学分野の研究を推進しています。今後も応用数学の最前線において一層の研究成果を上げるとともに,これまでに培ってきた教育の実績をより発展させて,応用分野において社会で活躍できる学生を輩出したいと考えています。

具体的な対象としては,次のようなテーマを各教員と大学院生が研究しています。理論的な研究から現象の解析に計算機を援用する研究まで,幅広いスタイルをとっていることも特徴です。「数学が世界を変える」を実践したい意欲あふれる学生に最適の場所を提供します。

  • 偏微分方程式を基礎としたスペクトル解析の応用,波動現象,光物性,逆問題,反応拡散系と数理モデルなど
  • エルゴード理論に基礎を置く、複雑系の統計的予測理論など
  • 非線形力学系を基礎とした生命科学,複雑系,カオス,時系列解析など
  • 確率論を基礎とした統計力学,生物物理,数理物理など