オイラーは著書“Introductio in analysin infinitorum”(1748)において、三角関数や指数関数、対数関数など、多様な個性を持つ対象を無限級数、超越関数という観点で統一的に扱い、それらが織りなす調和の世界 - 数学における最も美しい式と称される「オイラーの恒等式」を含む - を明らかにしました。本著はそれまでの数学の景色を一変させたと言われています。多様な個性のなかに潜む統一性を見出す視点、新たな観点を提示して、その遥か先に進むオイラーの手法は現代数学の研究の王道の一つでもあります。
北大数学では無限級数やテイラー展開を含む解析学の基礎、複素関数論を学部2・3年生で学びます。
指数関数がもつ特別な性質については高校で既に習っていることでしょう。熱伝播や拡散現象はラプラシアンと呼ばれる2階の微分作用素 \(L\) を用いて熱方程式の解で表現されますが、実は、熱方程式は指数関数を(遥かに!)一般化した半群 \(e^{tL}\) を用いて解かれることが知られています。さらに、宇宙のモデルとしても重要な“曲がった空間”「多様体」に対してもラプラシアンと半群が定義されて、そこでの熱方程式も半群を用いて解かれます。半群は数学の様々な分野で深い進化をとげて、20世紀数学の金字塔であるホッジ・小平理論,アティヤ・シンガーの指数定理、ペレルマンのポアンカレ予想解決につながるハミルトン・プログラム、一方、現代社会における重要なテーマである混合材料の物性の解明やウェッブのページランクなど様々な研究課題において中心的な役割を担っています。
北大数学では多様体の半群の研究に必要な多様体論、関数解析、確率論を学部3・4年の講義において学びます。
よく知られているように三角形の内角の和は180度、四角形の内角の和は360度ですが、外角に注目することで、「凸多角形の外角の和は常に360度(2π)」が知られています。これは多角形の頂点の「曲がり具合を表す量(外角)」を足し上げると常に2πになるということです。なめらかな曲面には各点で「曲率」と呼ばれる「曲がり具合を表す量」が定まって、それを全部足して(積分して)得られる値は、曲面をグニャグニャ変形しても変わらない一定の値になり、それが 2π(2-2g) と一致することをガウス・ボンネの定理は主張します(ただし g は曲面の穴の数)。ちなみにコーヒーカップとドーナツはともに穴の数は g=1 なので、「曲がり具合の和」は0になります。ガウス・ボンネの定理はトポロジーと微分幾何という二つの分野を結ぶ定理で、この美しい公式を一般化したいという多くの数学者の努力が、指数定理など20世紀の多様体の幾何学の発展の原動力になりました。
拡散という現象を知っているでしょう。熱いものと冷たいものをくっつけると熱いものは冷め、冷たいものは暖まり、やがて2つは同じ温度になっていきます。これは熱拡散と呼ばれます。同様に、水を張ったタライにインクを一滴垂らすと、だんだん拡がっていき、やがて均一な色合いになっていきます。これは物質拡散です。このように、拡散とは均一化をもたらすもの、それが我々の常識ではないでしょうか。
ところが、イギリスの数学者アラン・チューリング(A.I分野でも多大な業績を残しています)という人は、この拡散こそが、形が自発的に形成されるための根本的なメカニズムを持っていると提唱したのでした(1952)。
当時の人には全くのパラドックスでしたが、チューリングは反応拡散系と呼ばれる微分方程式を用いて、2種類の物質が相互作用しながら異なる速さで拡散すると、形が自発的に生まれる可能性があることを数学的に示したのでした。
それは数学だけが語りうる、直感だけでは説明することのできない現象でした。その後、その考えは自己組織化や散逸構造といった、ノーベル賞につながる分野へと発展していきます。北大数学ではこれらの基礎となる微分方程式、力学系や関数解析などの数学理論、および数値解析や数理生物など応用に関連する内容を学部3・4年の講義において学びます。
実は、正17角形が定規とコンパスで作図可能であることをこの公式は表しています。
ポイントはルート \(\sqrt{}\) だけ使って表せている点です。これはガウスによって発見されました。
彼はさらに \(2^{2^n}+1\) という形をした素数pに対して \(\cos \frac{2\pi}{p}\) がやはりルートだけを使って
表されることを示しました。これは現代数学におけるガロア理論の先駆けとなった研究です。
北大数学科では、ガロア理論を学部3,4年の講義で学びます。
また正n角形の頂点を複素平面の点で表すと \(e^{\frac{2\pi i}{n}}\)ですが、これは円分数と呼ばれ、円分数に関する整数論=円分体論は現代でも活発に研究されている分野のひとつです。
そしてこの理論の延長線上には、フェルマー最終定理の解決という偉業がありました。
正多角形の作図問題が、ガロア理論や円分体論、そしてフェルマー最終定理といった拡がりをもっているなんて驚きですね!
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