OB・OG聞く (後藤良彰さん)

“数学は一人でやっている”ってイメージがあるんですけど、実際は割とそうでもないですね

後藤良彰さん
小樽商科大学准教授(H26.3数学専攻博士課程修了)

Q:北大数学科の魅力をひとことでいうと?

後藤さん(以下G):マイペースなところ、ですね。

Q:大学で勉強している間に、(大学)教員になりたいと思うようになられたのですか?

G:僕の場合は、その場その場で色々やっているうちにどんどん数学に引き込まれて行って、気づいたらこの場所にいたという感じですね。自分で自由に過ごすことが出来たし、例えば勉強したいなって思ったときに、数学科の建物は図書室も充実していますし、先生方も優しくて、勉強するには良い環境だったかなと思います。

Q:数学のどういったところに惹かれていったのですか?

G:僕の場合はやっぱり、理屈できちっと綺麗に証明できるっていうところと、あと一見全く関係ないような所が突然、『実はすごく関係があった』ということが判明するところが結構好きでした。

Q:(それに)気づいたのは大学に入ってからですか?

G:そうですね、僕は高校の時はそこまでバリバリ数学をしていたわけじゃないので。

Q:そうなんですか!?

G:大学に入ってから結構勉強しました。

Q:大学に入ってから、数学科に入ろうと思うまでのきっかけを教えてください。

G:僕らの時は、理学部全体から数学を選ぶという感じだったので、1年生の時は理学部の中の学科を選ぶという感じだったんですけど、1年生で色々(授業を)受けていくうちに数学が自分には向いているかなって気がして。そこで『数学面白そうだな』と思って選びました。

Q:それが最終的に職業になるんですね。

そうですね。

Q:大学1年生から、ドクターを出て先生になられるまで数学をやられてきたわけじゃないですか。数学を学んできて、それがご自身の職業になったというのは勿論ですが、他に良かったなと思う事は何かありますか?

G:先ほどお話ししたように、物事を理屈で考えられるようになることですね。あと数学をやっていると「証明」をやるんですけど、証明をやっていくうちに作法なども学ぶので、物事を順序立てて説明するトレーニングを結構やることになります。そのおかげで、人に説明するときは、数学が関係ないものでも、順序立てて説明しようという心構えもできるので、説明がまともになったかなという気がします。

Q:うまく説明できるというのは何をするにしても、本当に大事ですよね。

G:そうですね。

Q:さっきおっしゃっていた「証明の作法』って一体どういうものなんでしょうか?

G:何かやみくもに(証明を)やるんじゃなくて、例えば、ここに向かいたいから、こういうのを準備して、こういうのを全部揃えたから最後証明が出来るとか、そういう感じで色々目標に向かって準備をしていくっていう、まあ論理的な準備なんですけど、そういうものを論理武装していくという作法、といった感じですね。

Q:どちらかといえば、逆算的に考えていくということですか?

G:証明するときはそうですね。アイデアはむしろ逆で、思いつくときはたいてい最後の結果が思いついて、これを証明するにはこれがいるな、といって戻っていくんですけど、最後に証明するときは準備していくという感じですね。

Q:アイデアが沸いてくるインスピレーションと論理って、割と矛盾しているというか…

G:そうですね。方向が逆なんですよね。

Q:(アイデアが沸いてくる)インスピレーションというのも、論理などの作法を積んでいくうちに沸きやすくなるものなんですかね?

G:どうでしょうね。それは結構個人差があるかな…。僕はあんまり、インスピレーションが沸きまくるというタイプではないんですけど、いっぱい色々やっていくうちに、例えば、こことここが繋がってるんじゃないかなってイメージを沸かせたり、あるいはたくさん例を見て、こことここが似てるなとか、そういうので色々訓練を積むというのはあると思いますね。

Q:出てきたアイデアを論理で詰めていくまでというのは、どれくらい時間がかかるものなんですか?

G:自力だけではすぐに解決できない場合もあって、そういうときは一緒に研究する人に頼むとか、相談に乗ってもらうこともあります。時間でいうと結構…物によりますよね。閃いて、ぱっといくときは一瞬で終わったりするんですけど、悩んでも悩んでも全然終わらないというときも結構あって、そういうときはもう、ちょっとわからないから放置でっていうのも結構あって…。

Q:一回寝かしておくとか…。

G:ええ。

Q:さきほど、他の研究者に相談すると仰いましたが、周りとのコミュニケーションは多いのでしょうか?

G:そうですね。それは結構大事かなと思いますね。「数学は一人でやっている」ってイメージがあるんですけど、実際は割とそうでもないですね。僕も最初は一人でやるものだとずっと思っていたんですけど、やり始めてみると、一人じゃどうしようもないっていうのも結構あって、いろんな人に手伝ってもらったり、手伝ったりという感じで、色々ディスカッションしながら発展させていくっていうのはありますね。

Q:先生の研究内容を簡単に説明して頂ければありがたいのですが…。

G:特殊関数というところをやっています。関数に『特殊』がついているんですけど、特殊関数というと大体名前のついているような関数です。実際に研究しているのはもっと複雑なものなんですけど、例えばsinとかcosとか、ああいうのは結構よくわかる関数で色んな公式がありますね。そういう公式も、『(sinやcosなどは)良い性質を持っているからこういう公式が出てくる』と捉えられます。『良い関数』っていうものが色々知られているので、『そういう関数の背景には何があるんだろう』ということを色んな道具を使って調べて、『ああ、この公式が出てくる理由はここからきているんだな』ということを解明しようとしています。さらに、『背景にはこれがあるんだから別の関数はどうかな?』とか『この関数にはこの性質があるんじゃないかな?』という感じでも調べています。

Q:北大の数学科を検討している学部の1年生とか高校生に向かって、こんなところがお勧めだということをお願いします。

G:数学科に来たからと言って就職の道がないとか、あまり、そういう負の部分は実はそんなに無いので、もしちょっとでも勉強してみたい、どこかで聞きかじった事で、こういう数学をちょっと勉強してみたいというのがあると、(北大数学には)きちんと勉強する環境は整っていると思うので、是非来てもらえるといいかなと思います。

取材日:平成29年9月30日

※ご職業、ご所属等につきましては、インタビュー当時のものです。

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