田﨑創平 准教授

TASAKI Sohei

数理科学系

所属
大学院理学研究院
研究分野
数理生命科学, 微生物学, 数理物理学, 応用数学
キーワード
数理モデリング, データ同化, 形態形成, 自己組織化, 集団運動, 枯草菌, コロニーパターン, バイオフィルム

研究概要

研究内容

生命の複雑な構造の自己組織化の動態や高度な機能を理解するためには、生物学、化学、物理学、情報科学、数学をはじめとする様々な学問分野を跨ぐだけでなく、研究対象の時空間階層を貫く、縦横無尽なアプローチが力を発揮すると私は考えます。細胞状態を制御する遺伝子レベルの調節、細胞間の相互作用に依存する細胞集団運動、細胞集団・組織の微視的構造および巨視的形態、周囲環境との相互作用など、複数の階層をマルチスケールに捉えて解析していくことが重要です。私はそれぞれの階層やそれらの結びつきの数理モデルを実験データに合わせて構築します。その一方で、新規開発のデータ分析手法により、高次元の生命科学データから必要な情報を抽出します。そして、それらの数理モデルと抽出データを融合し、モデル進化と理論深化を試みます。以上を循環させる新しい数理解析と最新鋭の生命科学の融合的手法によって、生命の理解、予測、制御のパラダイムシフトを目指します。

主要論文

  • S. Tasaki, M. Nakayama, W. Shoji, Morphologies of Bacillus subtilis communities responding to environmental variation, Development, Growth & Differentiation 59(5) (2017), 369-378.
  • S. Tasaki, M. Nakayama, W. Shoji, Self-organization of bacterial communities against environmental pH variation: Controlled chemotactic motility arranges cell population structures in biofilms, PLoS ONE 12(3) (2017), e0173195.
  • S. Tasaki, Phase-separating elastic system of mixed lipid bilayers, Physica D 246 (2013), 23-38.

研究者総覧

https://researchers.general.hokudai.ac.jp/profile/ja.17c54a21e68415ed520e17560c007669.html

連絡先

tasaki(at)math.sci.hokudai.ac.jp

学生へのひとこと

数学のあり方は多様です。数学は学問であり、言語であり、道具であり、文化です。柔軟に付き合い方を変えるのが良いと思っています。

インタビュー

―ご出身と、ご出身の大学を教えてください。
福岡県生まれの兵庫県育ちです。大学は大阪大学で、情報科学科に入学しました。そのあと2年生の時のコース分けで数理科学コースに入りました。その時はまだ数学をやるとは思っていなかったのですが、理論科学者に憧れていたので、それならこっち(数理科学コース)かなと進路を選んだところはありました。今思えば数理科学コースというのはいわゆる数学科と近いものだったと思います。それから大学院では基礎工学研究科に進みました。主に数理物理の分野で、特に熱力学や材料科学とかとかかわることを研究していて、数理モデルを解析して現象をより詳しく知ろうという研究をしていました。
―理論科学者に憧れが?

はい、理論的に研究をしていく方がかっこいいなと思っていたんです。昔からの数学者、昔からのやり方に憧れがありましたが、実際研究を進めていくなかで考えは変わっていきました。そのことには、僕自身の応用志向や、東北大学の学際科学フロンティア研究所での経験や、大学時代の指導教官の鈴木貴先生の影響があったと思います。
―これまで研究を進めるなかで、大変だったことはありますか? 
2013年から5年間、東北大学の学際科学フロンティア研究所に所属していました。そこは融合研究を推し進めている研究所でしたので、多くの分野からどの研究テーマを選ぶかということにぶちあたって悩みました。そこから新しく、生物の研究をはじめようと踏み切ったのですが、あちこちに出向いてテーマを探していても何かピンとこないな・・という気持ちはずっとあったように思います。当時東北大に西浦廉政先生がいらっしゃって、研究室にお邪魔したところ、席をひとつ用意してくださったりもしました。たぶん僕が本当にテーマについて悩んでいたので見かねて声をかけてくださったのかなと(笑)。
―なかなか研究テーマが決められなかったのですね。
そうですね。もともと生物に興味はありましたが、ずっと数学と生物は相性が悪いと思っていたんです。生命はいろんな誤差やランダム性があって思うようには進みませんので、数学とは馴染まないと思っていたのですが、勉強をし始めたら面白くて夢中になりました。そこで新たな方向性がみつかって。当時の研究は、今の僕の中心的な研究課題である真性細菌の集団的なパターンの研究にもつながっています。
生命はすごく多様ですが、細胞から成っているとかそういう部分は共通しているので、色々な課題を研究していく中で生命のシステムを数理的に研究するというのは面白いし大事だなと感じました。生命系の最先端の研究になってくると、情報系の人か数学者、あるいはその両方が必ず参入しています。実験しただけでは研究結果として良い形にならないからです。たいてい定量的な何かが必要で、サンプルの統計を取ることはもちろんですが、細胞の数や形がどんなふうに変化するとか、コロナの感染者がどんなふうに増えていくのか、というようなことを考えるうえで数学が直接的に役に立つし、場合によっては情報科学が役に立つような時代になってきました。
今の主流はデータ科学になってきていますし、理論科学と観察・実験科学の両方を使うというのが今の僕の理想です。数理モデルと実際のデータを融合していく、数学を広く捉える、ということが重要になってきていると感じています。
―数学はいつごろから好きでしたか。
特に好きだと思ったことはなかったかもしれないですね。得意ではあったのですが、好きだったかと言われると普通だったと思います。大学に入る直前までは医学の研究者になりたいと思っていましたが、ちょっとぼやっとしていて受験勉強のやる気が続かなかったですね(笑)。精神医学にも興味があって、高校生の頃はフーコーやユングを読んだりもしました。科学者になりたいという気持ちは幼少期からずっとあったように思います。
―お休みの日は何をして過ごされていますか。

最近は、休みの日は子どもと遊んで終わってしまいますね。趣味と言うほどでもないのですが、朝すごく早く起きられた時に走ったりしています。あとは、子どもがピアノを始めて、課題をやったりするのを隣でみているうちに、一緒にやらないとわからないなと思ったので、僕もピアノをはじめてみました。ピアノは脳のワーキングメモリが鍛えられている感じがしてすごくいいですね。
―学生にはどのようなことを期待していますか?
僕には、数学のコレを必ず勉強しておいてほしいみたいなものはありません。そのかわり、学生には、自分の心に問いかけることのできる人であってほしいと思っています。あなたのモチベーションはどこにありますかということを、まず、聞きたいですね。自身の動機がどこにあるのかを探り、そこから派生する目標のためにいま何をすべきかについて悩める人が理想かなと思います。そういう力が、自主的に勉強したり研究課題をみつけたり、研究を進めていくことに、いちばんパワフルに効いてくると思っています。
―最後に学生にメッセージをお願いします。
今の科学の研究はどの分野においても、ビックデータの時代が到来していて、実験から得たデータからどれだけ重要な事実を抽出できるかということにかかっています。そのような時代だからこそ、今、数学が役に立つと言えます。学生のみなさんが、自分のやりたいことと結びつく数学をみつけられるといいなと思いますし、そのような数学はここにきっとあると僕は思っています。ぜひ、最先端のサイエンスに貢献できる最先端の数学を、勉強しに来てください。