中野雄史 准教授

NAKANO Yushi

数理科学系

所属
大学院理学研究院
研究分野
エルゴード理論、力学系理論
キーワード
非双曲力学系、転送作用素、準安定性、ホモクリニック接触、ランダム力学系

研究内容

漸化式による数列や自励系微分方程式の解など、単位時間あたりの発展法則が与えられたときの長時間経過後の様子を研究する分野を力学系理論と言います(対応する時間作用を力学系と言います)。力学系という名称からよく誤解されますが、これは力学モデルに限る必要はなく、人口や株価、降水量など様々な自然・社会現象の数理モデルが対象となります。例えば半年後の天気予報がなかなか当たらないことを考えれば納得できるかと思いますが、気象モデルなど様々な力学系は初期状態のわずかな変化が長時間経過後に大きな影響となることがあり、この性質はカオスと呼ばれています。カオスは軌道としての将来予測を困難にしますが、統計的にはむしろその乱雑さ故に解析が容易となります。一方で、乱流のようにカオスの縁にある力学系の統計的性質は、現在でもよく分かっていないことが多くあります。双曲力学系と呼ばれる良い微分幾何的性質を持つ力学系については、カオス的記号力学系と同型になり、それゆえ大数の法則や中心極限定理、平衡測度の存在と一意性など種々の良い統計的性質が成り立つことが知られています。私の専門は非双曲力学系ですが、これは双曲的でない力学系を研究するということを言っているだけであって、色々な性質を持つ力学系が対象となっています。今まで研究を行ってきた対象、ないし現在特に興味を持っている対象は、中立方向を持つ部分双曲力学系(例:Lorentz理想気体)、中立不動点由来の無限エルゴード的カオス(例:Pomeau-Manneville型乱流モデルの間欠性)、ホモクリニック接触を持つ力学系(例:時間平均が存在しないような3生物種競合モデル)などです。また、他の自然科学からの要請に従って現れた力学系の亜種(例:ランダム力学系、写像結合系)と従来の力学系との差異についても関心を持って研究を行っています。

主要論文

  • Pablo G. Barrientos, Fumihiko Nakamura, Yushi Nakano, Hisayoshi Toyokawa, “Finitude of physical measures for random maps”, Asterisque, to appear (arXiv:2209.08714).
  • Shin Kiriki, Yushi Nakano, Teruhiko Soma, “Emergence via non-existence of averages”, Advances in Mathematics, 400 (2022) 1-30.
  • Shin Kiriki, Xiaolong Li, Yushi Nakano, Teruhiko Soma, “Abundance of observable Lyapunov irregular sets”, Communications in Mathematical Physics, 391 (2022) 1241-1269.
  • Yushi Nakano, Tomoo Yokoyama, “Existence and non-existence of length averages for foliations”, Communications in Mathematical Physics, 372 (2019) 367-383.
  • Yushi Nakano, Jens Wittsten, “On the spectra of quenched random perturbations of partially expanding maps on the torus”, Nonlinearity 28 (2015) 951-1002.

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連絡先

yushi.nakano(at)math.sci.hokudai.ac.jp

学生へのひとこと

数学は自由な発想ができる楽しい学問です。とはいえ具体的な楽しいポイントは人それぞれですので、その楽しさを十全に味わうためには、気長に、色々な角度から数学と向き合うことが大事だと思います。