本多尚文 教授

HONDA Naofumi

解析系

所属
大学院理学研究院
研究分野
代数解析学
キーワード
Holomorphic Micro-functions, 不確定特異点, 極大過剰決定系

研究概要

研究内容

代数解析学は、解析と代数を融合して種々の問題を考察するという、日本人の手によって始められた、真に独創的な(誇るべき)仕事の1つである。私の研究は、その中の、不確定特異点型の極大過剰決定系の分類問題が中心である。極大過剰決定系とは、1次元における常微分方程式系と似た性質を持った、高次元における方程式系の事で、数学の色々な分野に大きな影響を与えている。確定特異点型の極大過剰決定系は、Riemann – Hilbert 対応によって、美しい結果が知られている。これに対して、不確定特異点型はStokes現象など、全く確定特異点型とは異なった現象が発生する。これらを、高次元において研究する事は、新しい発見や面白い現象を見付ける事が出来、なかなか楽しい仕事である。

主要論文/主要著書

  • T. Aoki, N. Honda and S. Yamazaki
    Foundation of symbol theory for analytic pseudodifferential operators, I
    Journal of the Mathematical Society of Japan 69 (2017), 1715-1801
  • N. Honda, L. Prelli and S. Yamazaki
    Multi-microlocalization and microsupport
    Bulletin de la Société Mathématique de France 144 (2016), 569-611
  • N. Honda, T.Kawai and Y.Takei
    Virtual turning points, Springer briefs in Mathematical Physics, 4,
    Springer, (2015)
  • T. Aoki, N.Honda, Y. Umeta
    On a construction of general formal solutions for equations of the first Painleve hierarchy I,
    Advances in Mathematics 235 (2013), 496-524
  • N. Honda and L. Prelli
    Multi-specialization and multi-asymptotic expansions,
    Advances in Mathematics 232 (2013), 432-498

授業資料

参考

推薦図書

研究者総覧

https://researchers.general.hokudai.ac.jp/profile/ja.bf342837413713f4520e17560c007669.html

連絡先

n-honda(at)math.sci.hokudai.ac.jp

インタビュー

Q. 出身高校と出身大学を教えて下さい。

出身高校は北海道釧路湖陵高等学校です。出身大学は東京大学で,理科Ⅰ類に入学して学部の時は工学部の応用物理の数理コースにいて院から数学科です。

Q. 大学院で数学科に進んだきっかけは?

もともと,小中高と数学が大好きだったので,研究者になろうとかは考えていなかったのですが,数学ができるならいいなという事で数学科以外は考えていなかったのです。ただ,何故大学の学部の時に応用物理に行ったかといいますと,大学に入学すると飲み友達ができて色々将来の事を話すようになるのですけど,僕の頃はまだ景気のいい時だったので,皆が自分の作ったものがダイレクトに社会に役立つような学問がいいんじゃないかと話すわけですね。僕も何となくどんどん洗脳されて・・・。

今考えると若かったなあと思いますが。応用物理というのは割りと数学を良く使うところなので,大学2年になると学科分属があるのですが,そのようなわけで工学部の応用物理に行ったわけです。そうすると実際本当によく数学を使っていて,数学の理論は大活躍しているわけですよ。応用にも生かせますし,僕にとっては満足だったのですが,学科の特色としてやはり応用面が強調されて,基礎的な理論ももちろんやるのですがそちらの方は応用のためという側面が強かった。僕個人としては基礎的な部分も好きでしたし,学部のとき,佐藤先生の代数解析の理論を知って,数学科でそれをやりたいなという気持ちになっていた。そういうわけで院からは数学科に行ったという事ですね。

Q. 代数解析にめぐり合ってから数学の大学院に進む決意を?

大学院に進学するのは数学でなくても進学しようと思っていたので,それ自体が大学院に進むという事の動機付けにはなっていないですが,やはり数学科に戻って数学を研究してみたいと思ったのは佐藤理論に触れたということが非常に大きかったですね。

Q. 大学院生活の中で自分のためになったなと思うことは?

とにかく,時間が有り余っていた事だと思いますね。数学というのは積み重ねなわけですね。最先端のことを知るためにも非常に色々地道な基礎のところを勉強しなくてはいけない。例えば我々のように就職してみると,やはりある程度時間が限られてくるわけです。だけど大学の時というのは時間が有り余っているので強迫観念なしにじっくり基礎的な部分を勉強することができる。しかも基礎的な部分で気になる別な脇道にも深く突っ込む事が出来るわけですよね。時間がたっぷりあったから好きな事を好きなだけ勉強できて,数学に限らず自分の興味を持った事を,なんの強迫観念もなく,将来これが役に立つかどうかも考えずに,ただ自分がおもしろいと思っただけでできたというのは,大学院にいた時の僕にとってはものすごく幸せでした。

あとは海外からの研究者や有名な研究者がたくさん来ましたから,そういう方と短い時間だけど話ができるわけですよ。その短い時間というのが本当に僕にはエキサイティングで非常に有意義なものでした。将来,どんな事に役立つかなど考えずに何でもできるという時間があるというのは本当に幸せな事だと思いますね。多分このインタビューは学生の方々も見ると思いますが,いかに自分が今,何でもできる幸せな状況にあるのかを認識していただきたいと思います。これは年をとってみないとわからないかもしれないけれど。

Q. 北大の大学院のいいところは?

北大というのは本州から離れていますよね。だけど多くの研究者が来ていて,割と刺激的であるというのはまず一点目ですね。二点目は逆に,東京から離れているからいいというのがあると思います。それは何かというと,東京にいると刺激が大きすぎる。やはり人間,自分の能力をこえた刺激が過剰に来るというのはあまりいい状況ではなくて,北海道というのはそういう意味で数学の分野として活発であり,且つ適度な刺激であるという点で地の利がいいと思う。しかも数学というのは距離はあまり関係ないですよね。要は図書が充実していて,自分の勉強する時間とある程度の小さな研究する場所があればいいという事ですから。北大というのはそういう意味で数学の研究にはふさわしい所と思います。あと,自然もいいですしね。

Q. 大学院進学を考えている学部生に何かアドバイスはありますか?

大学院に進学するという事はある程度自分の興味のあることを絞るという事ですよね。大学院は色々ありますからね。数学科でも大学院は解析系教員など分かれていくわけですよ。そうするとやはり,自分がどういう分野に進むかということを考えなくてはいけないわけです。僕が思うに,そこが非常にバランス感覚を要求されるところだと思うのです。今は昔と比べて情報化社会になって情報の伝達が早いわけですし色々な誘惑が常に自分の周りにあるわけですね。だからひとつの事に時間をかけて専念している時に他の情報や誘惑があって,すぐ気が移ってしまう事があるわけですね。それはいい事もあるのだけれど危険な事もあって,結局身につかないという事になってしまうこともある。だから,ある程度自分の意志をしっかり固めて,どっと一つの物事に専念するという事を自ら心がけなければいけないわけです。

ところが,他方そればかりやっていると井の中の蛙になって全く自分勝手な方向音痴な事をやってしまう可能性もある。だから,色々な情報は広く知らなければいけないけれど,自分の意志をしっかり持って一つの物事に専念するということもしなければいけない。つまり両者にかなりのバランス感覚が必要とされると思うんですね。だから,3,4年になって必要な事はそのバランス感覚をしっかり磨いて自分の研究スタイルをまずは作っていく事を意識するというのが重要であって,そういう過程から自分の特に興味ある事や,やりたい事が生まれて来るのではないかと思うんです。こういうことはものすごく時間の掛かることで,一ヶ月二ヶ月努力したからといって目に見えた成果が上がる事でもないわけです。長い時間は掛かると思いますが,そういう事を常に意識して大学院進学を考えていくのが良いのではと思います。

2005年(平成17年) 5月インタビュー実施