岩﨑克則 特任教授
研究概要
研究内容
複素多様体や代数多様体上の正則写像の力学系理論・エルゴード理論に興味を持っている。複素多様体や代数多様体は単純でとても美しい幾何構造をもつ空間である。一方,力学系理論やエルゴード理論は,カオスやフラクタルという言葉で表わされる,写像の反復合成の織りなす複雑な幾何文様を扱う分野である。両者を融合すると,単純な美しさをもつ空間のうえに,複雑この上ない模様を描くという二重の楽しみを味わうことができる。これらの理論の応用として,パンルヴェ方程式とよばれる非線型微分方程式の複素力学系を研究している。パンルヴェ方程式の解空間は代数多様体になり,その大域挙動はモノドロミー写像とよばれる正則写像の力学系によって表わされる。パンルヴェ方程式は,超幾何方程式という有名な線型微分方程式の非線形版にあたるが,その非線形性の故に,超幾何方程式には見られないカオス的挙動を示すところがおもしろい。
主要論文
- K. Iwasaki,
Finite branch solutions to Painleve VI around a fixed singular point,
Adv. Math. 217 (2008), no. 5, 1889–1934. - K. Iwasaki and T. Uehara,
Periodic points for area-preserving birational maps of surfaces,
Math. Z. 266 (2010), no. 2, 289–318. - K. Iwasaki,
Cubic harmonics and Bernoulli numbers,
J. Combinatorial Theory, Ser. A. 119 (2012), no. 6, 1216–1234.
研究者総覧
https://researchers.general.hokudai.ac.jp/profile/ja.ce6197ebe9131b5e520e17560c007669.html
連絡先
iwasaki(at)math.sci.hokudai.ac.jp
学生へのひとこと
いっしょに数学を勉強しましょう。
インタビュー
Q. 出身高校と出身大学を教えて下さい。
出身高校は兵庫県立小野高校という、地方のごく平凡な県立高校でした。大学は東京大学理学部数学科卒です。
高校まではあまり成績が良くなかったんですけれども、一浪している間になんとなく成績が伸びてうまく大学に入ることができました。
Q. 数学科進学のきっかけ、動機など
中学校くらいからユークリッド幾何学の証明とかを通じて、ばくぜんと数学が好きだなと思ってました。高校時代もそういう気持ちが続いて、数学とか物理とか基本的な分野が好きだなという憧れがありました。
東大というのは2年までが教養学部で、入学時にどこの学部のどこの学科に進学するかは決まっていなくて、進学先は2年生後期から決まります。それで、物理学科か数学科のどちらかと考えてましたけど、あまり実験も好きではないので(笑)、実験のない数学かなと思って決めました。
特に先走って勉強する事はなかったですけど、読みもの的な本を読んだりして少し憧れを持ってました。あとは大学1年生ぐらいの時に「全学ゼミナール」というのがあって、リーマンのゼータ関数をやっていて、一応出てみたでんすけど全くダメで。チンプンカンプンでよく解らなかったんですけど、何となくひかれるものはあったりしたので数学科に進学した…という感じです。
Q.進学したときはすでに研究者志望でしたか?
その力があるかどうか解らなかったですけれども、できれば研究者になれればいいなという気持ちはありました。
Q.迷わず大学院に進学したのですか?
そうですね、大学院に進学するのが第一希望で、そのための勉強とかもしていました。その頃の修士の入試は厳しかったので、合格しなかった場合のことも一応考えていました。たとえば研究者の道に行かないのであれば全然別の道もあるかなと思って、国家公務員の上級試験をうけて合格して、そちらの方も見てみたりしました。それは修士の2年間くらいまで有効なので、とりあえず研究者になれないのであれば国家公務員かなと思って、経済企画庁の様子を見たりもしました。でも何となく数学の研究者の方がいろんな意味でいいなとずっと思っていて(笑)
その頃は修士を修了するとすぐに助手に採用されるという就職口があって、運良く採用されることになりました。それで、博士課程は行っていないですけど、助手をやっているあいだに論文博士を取りました。
Q.それでは数学者になろうと思ったきっかけは、修士を卒業されて助手になったところで自動的に…
そうですね、その前から、できればないたいなとは思ってました。
Q.その時は何を研究してらっしゃったんですか?
北大では幾何系に属してますけれど、若い頃は解析を中心に勉強していて、大学院の頃まではそんな感じでした。微分方程式を中心にやってました。でも、もともと幾何に対する憧れというか、好きだという気持ちが強くて。ただ、その頃の幾何に対する印象は難しいなと思う部分もあって、勉強するのに時間がかかる部分もあったので、だんだん解析から幾何にシフトしていきました。助手から助教授の頃に授業にもぐりこんで勉強しましたね。今となってはいい思い出です(笑)
Q.そのように、職についても大学院の授業にもぐりこんで勉強するという事は良くあるんですか?
どれほど一般的かわからないですけど、その時は許される雰囲気がありました。授業をしている先生の立場から言うといやがられるかもしれないんですけど、あまりそういう事を気にするような内容ではなかったです。一応学部時代に勉強はしていたんですが、もう少し突っ込んだ内容の勉強をしました。
Q.それからだんだん幾何の方にシフトされたんですね?
そうですね。これという専門を早く決めるタイプではなかったので、徐々にシフトしながら色々と分野にこだわらずに満遍なく勉強していて、自分の研究に役立てるようにしていきました。そういう意味では今でもいろんなことを素人的に見ていて、これが専門だという感じがそれほどないというか。色んな数学を結びつけて勉強できればいいかなと思っています。
Q.現在の研究内容を簡単に説明してください
現在の研究は、最近複素多様体とか代数多様体上の正則写像とか、写像の力学系ですか。そういう分野に関心があります。複素多様体とか代数多様体は非常にきれいな空間で、その上で写像の反復合成をすることによって、すごく複雑で多種多様な図形が出てきたりするので…、ジュリア集合とか。その対比が面白いなと思って。非常に単純という意味で非常に美しい空間の上に、非常に複雑で、別の意味ですごくきれいな模様が描ける。そういう幾何的な構造を調べることに関心があります。
そういう理論をパンルヴェ方程式という非線形の微分方程式に適用して、その大域挙動を研究しています。
Q.パンルヴェ方程式の中をいじっていると、フラクタル的な集合と関連がついたりするんですか?
パンルヴェ方程式の大域挙動をあらわすモノドロミー写像というのがあるんですけど、それが非線形の写像で、それを反復合成するとその中にフラクタル状の現象が見えてくるということです。
ふつうパンルヴェ方程式というと可積分系と言われることが多いんですけれども、僕自身はそれとはまた違う立場から見ていて、むしろそれとは対極にあるような複雑現象を研究する方向でやっています。あまり他の人はやっていないので…(笑)
Q.可積分系とフラクタルを結びつけて研究している人は少ないですね
見方次第で、一般的には可積分系と見られているので、可積分系的な現象を解析するということになるわけですが、それとは全然違う見方をすると、カオス系的な現象もちゃんとそこにありますよという事を言いたいわけです。
Q.本当に色んな分野を複合したような…
そうですね、そういう事を複合できるようなところを研究したいなと思っています。
Q.求める大学院生像はありますか?
最初から色んなことは勉強できないので、とにかく一つのテーマを決めて、そこでじっくりと勉強してくれる人がいいと思います。一つのテーマを決めて、そこを深く究めるという。必然性があってだんだん広がってくるので。あまり最初から広がりというものは求めない方がいいと思います。
Q.先生の研究とオーバーラップしているかどうかは考えますか?
まあオーバーラップしていることが望ましいですけれども、自分が勉強したいという事があれば、それにつき合いたいなと思います。
Q.ちょっと一般論ですけれど学生さんが大学院に進もうと思う時に、こんなメリットがあると言えるものがあったらお願いします
そうですね、まず今の教育体制ですと、学部の勉強というのは深く踏み込んだところまでは行かないので、学部時代に習った事が活かせるのは大学院になってからだと思います。やはりある程度深く勉強しようと思うならば、大学院に行くのは必須のことだという気がします。
Q.修士と博士の違いというものは何かあると思いますか?
まず博士になると自分でこれを研究したいという目標があって、それに向かって主体的に取り組むという態度が望まれるので、とにかくこういう事が知りたいな、研究したいなという目標が定まっていることが大切です。
学部時代では専門的な先の事はなかなかわからないけど、それでも色々とアンテナを働かせておいて、先にある面白そうなことに憧れみたいなものを持てればいいと思います。
Q.先生の学部時代では、どういう情報源がありましたか?
ゼータ関数のセミナーはまったく解らなくて (笑) 学部時代は学部の勉強をするだけでも非常に大変で、自分自身の進んできた道から言うと、あまり先は見えてませんでした。あとから振り返ると、内容が深くわからなかったとしても、先に何があるのか事前にわかっていれば良かったかなと思います。
僕自身はとにかく修士を卒業して研究者の道に入って、その後からだんだん自分の道筋をつけていったという感じなので、そういう意味では上で言ったことからは少しずれています。本当にものごとがわからずただ勉強していたというのがあるので、ふり返ってああこうであればよかったなという意味で言っています。
Q.北大大学院数学専攻に進学を考えている学生へ向けて、先生が前におられた九大との違いなど、北大の特色のアピールをお願いします
まず北大はすごく環境がいいですね。キャンパスも広いですし。JRの駅からも非常に近くて、中心街から非常に近いにも関わらず、たぶんキャンパスの雰囲気とかも日本で一番いいと思います。
あとは特に夏は非常に過ごしやすいです(笑)冬はたぶん寒いんでしょうけれども、逆に言えばじっくりと閉じこもって勉強なり研究なりができるのではないかと思ってます。本土とか九州に比べると、雰囲気がかなり違う部分はありますね。いい意味でこの広さが気持ち的にも広くしてくれるんじゃないかと。
Q.先生ご自身の研究環境は良くなりましたか?
僕自身はなるべく静かな方がいいので。評価やお金のことで最近いろいろと世知辛い世の中になってきて、大変になってきた部分もありますけど、北大の場合はそのあたりも割とおおらかな部分を感じますので、大切にしていけばいいんじゃないかなという気がします。
Q.学生に学部の間にやっておいて欲しい事など
そうですね、まず微分積分と線形代数をしっかりと勉強してほしい。それから、1冊気に入った本をじっくりと読む経験を持ってほしいです。
また数学以外のことで、何かやってほしいです。例えば歴史の本を読むでもいいし、スポーツでもいいです。特に数学以外で一生懸命やることを一つ見つけてもらうといいかなと思います。
Q.先生は数学以外はどういうご趣味でしたか?
数学以外というか、そうですね、修士論文を書くのに非常に苦労したので、なかなか書けない時というのは他のことをやりたくなるんですね。あんまりさぼっているのも気がとがめるので、全然関係のない本、例えば歴史ものをずっと読んだりしてましたね。
好きでやったと言うよりも、修士論文がなかなかできないので(笑) 逃避して別の本を読んだりはけっこうやりましたね。
Q.そういう気晴らしも必要なんですね。最後に北大大学院数学専攻に進学を考えている学生へのメッセージをお願いします
数学が好きだなと思ったらぜひ来て欲しいですね。
2010年(平成22年) 8月 インタビュー実施