求愛ダンスを見せびらかす小鳥のカップルたち

理学部 生物科学科(生物学)行動神経生物学系 相馬研究室 相馬 雅代 准教授

相馬研究室では動物行動学、行動生態学、比較認知科学、進化生物学をカエデチョウ科鳴禽類を通して研究しています。鳴禽類とは、「スズメ亜目」と呼ばれる小鳥の仲間で、そのうちジュウシマツやブンチョウ、セイキチョウなどがカエデチョウ科に属します。

今回紹介する論文は、ルリガシラセイキチョウ(以下セイキチョウ)が、第三者が存在するときにより頻繁に求愛行動を行うこと、また、第三者が同性より異性の方がより多く求愛することを解明し、報告したものです。

キンカチョウの近縁となる小鳥を探す

鳥の中でも歌う鳥はよく研究されていて、その代表はキンカチョウです。代表だけあって、多くの人が研究をしています。そのため競争も激しく、研究できることも限られてきます。「生物学は多様性である」と考える相馬准教授は、近縁で他に研究されていない鳥をキンカチョウと比較してみたいと考えていました。恩師がセイキチョウの話をしていたことを思い出し、折よく、セイキチョウが輸入され、ブリーダーが繁殖を行っていて手に入りやすい状況であることもわかり、その研究を始めることにしました。

一方、今回の論文第一著者である太田菜央さんは、理学部生物科学科(生物学)在学時から相馬研に所属し、当初はブンチョウの研究をしていました。その後、大学院に進学し、修士課程の途中から対象をセイキチョウに変更しました。ちょうどその頃、セイキチョウについて新たな知見が得られ始めたタイミングも重なり、一緒に研究に取り組み始めました。

セイキチョウの求愛行動

当時、求愛についての研究は、求愛する側とされる側が一対一の状況を想定して行われたものが多数でした。しかし、群れで暮らす動物の場合、雌雄間のコミュニケーションは集団の中で行われることが想定されます。

セイキチョウはアフリカに生息する、つがい(社会的一夫一妻制)を作り、群れで暮らしている小鳥です。雌雄共に、歌いながら高速のタップダンスでパチパチという音を脚でたたき出しながら求愛行動を行います。これは通常の10倍の速度で撮影できるハイスピードカメラ(1秒間に300コマ相当)でなければ捉えられないほど高速の運動です。そこで、なぜ高速で複雑なダンスをするのかを「観客効果(第三者となる同種他個体の影響)」に着目して検討しました。

飼育されているセイキチョウの求愛行動の量は第三者の有無によりどう変化するのでしょうか。ビデオ撮影し、観察をしました。この観察はドイツのマックスプランク鳥類学研究所のManfred Gahr教授のところで行いました。Gahr教授がセイキチョウ研究の先駆者であったことと、そこのセイキチョウは何世代にもわたって飼育されていたので、人慣れしていて扱いやすいという利点があったためです。

これらの第三者を意識した求愛行動は、群れ社会の中で大きな意味を持つといえます。

求愛行動は本来、配偶者の候補となる異性を引き付けるためのプライベートなコミュニケーションです。しかし今回の発見は、少なくともセイキチョウにとっては、求愛コミュニケーションが従来考えられていたよりも広い社会機能を持つことを示しています。

様々な動物を用いた過去の研究では、求愛行動自体の観客効果に関してはほとんど検証されていませんでした。性行動については、浮気相手との交尾の様子をつがい相手に見せない、本命の個体を好むそぶりをライバルに隠すといった、第三者に対して隠す傾向の方がよく報告されてきました。本研究はそれとは対照的に、雌雄の相思相愛関係を他者に宣伝することの生態学的意義を示唆しており、セイキチョウの長期的なつがい関係の維持には雌雄間の忠誠と絆が重要である可能性が高いと予測しています。

複雑な求愛行動をどう進化させたか理解したい

今後、つがい間や周囲の個体とのコミュニケーションを長期的に観察することで、セイキチョウの求愛に関する理解が深まることでしょう。また、このような着眼点は人のようにつがい関係をはぐくむ動物が複雑なコミュニケーション手段をどう進化させたのかを理解するうえで、有効なヒントになるかもしれません。

この論文を含む一連のセイキチョウの研究を通して、太田さんは博士号を取得しました。その際、大学院博士課程の優秀な女子学生に贈られる「北海道大学大塚賞」を受賞(平成28年度)しました。すでに研究者として、ドイツ・マックスプランク鳥類学研究所に研究の拠点を置いた太田さん。今後のさらなる研究成果が期待されます。

「つがいの仲はとても良く、ずっとくっついていますよ」とセイキチョウのケージを見る相馬准教授。「仲の良さをライバルにこれ見よがしに見せつけてアピールしたりするのは、公開プロポーズをする人間を彷彿とさせる」とのこと。セイキチョウの求愛行動は人間らしさを感じさせるものがあるのかもしれませんね。

 

今回紹介した論文はこちら: N. Ota, M. Gahr, M. Soma, Couples showing off: Audience promotes both male and female multimodal courtship display in a songbird. Sci. Adv. 4, eaat4779 (2018).

右が太田 菜央さん
相馬研究室に在籍している学部生,大学院生たちとの集合写真

 

理学部広報誌「彩」第4号(2019年2月発行)掲載。>理学部 広報・刊行物

※肩書,所属,学年は広報誌掲載当時のものです。

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