わたしの一冊 ~理学部教員の本棚より~
皆さんは、心に響く一冊や、新たな発見をもたらしてくれる本との出会いがありますか?
今回は、理学部の教員たちが自らの人生や研究に深く影響を与えた本を語る特集記事をお届けします。どの本も、単に知識を得るだけでなく、思考を深め、視野を広げ、時には人生の指針となるような力を持っています。理学部の多様な学科で活躍する教員たちの「本棚」から、彼らがどのように本と向き合い、どのような影響を受けてきたのかをぜひご覧下さい。
宮尾 忠宏 教授(数学科)
熊本県人吉市出身。東北大学卒。趣味は読書やクラシック音楽鑑賞など。 専門は数理物理学。物理現象の背後に潜む数学的構造を解き明かし、それによって現象をより深く理解することを目指している。例えば磁石内部で無数の電子が示す多様で複雑な振る舞いの本質を、数学の力を借りて明らかにしようと取り組んでいる。
数理物理学者になったきっかけ
私が数理物理学の道に進むきっかけとなったのは、『ヒルベルト空間と量子力学』という一冊の本でした。この本に出会ったのは、大学2年生の終わり頃です。当時、東北大学工学部応用物理学科で物理学を学んでいましたが、数学的に不明瞭な説明や厳密性を欠いた議論に何度もつまずき、もどかしい思いをしていました。数学が好きだった私は、普通の人が気にしないような細部にも引っかかってしまい、その結果、多くの疑問が解消されずに残っていました。そんな中で、この本を手に取ったことで、それまで抱えていた疑問が驚くほど解決されました。この本は、物理的な直感的推論と数学的厳密性を見事に両立させており、私にとって理想的なアプローチを示してくれるものでした。この一冊が、数理物理学という学問分野を私に教えてくれたのです。
著者との出会い
著者である新井朝雄先生(北海道 大学名誉教授)は、当時北大理学部数学科の教授でした。私はこの本に 感銘を受け、大学院修士課程から新井先生のもとで学ぶことを決めました。それ以来、数理物理学者として の道を歩んでいます。新井先生は数多くの本を執筆されており、私のようにその本に導かれてきたお弟子さんも多くいらっしゃいます。この本の素晴らしさは、専門的な数学書でありながら初学者にも手に取りやすく、さらに学びを深めたいという意欲を引き出す点にあります。現在では、学生とのセミナーで使用することもあり、特に学部3、4年生にお勧めしています。

数学の学び方あれこれ
かつて大学生は主に書籍から学んでいましたが、最近では動画を活用する学生も増え、非常に便利な時代 になりました。例えば、微分積分や線形代数の概念を、動きのある図で説明する動画は、理解を助ける上で効果的です。ただし、動画学習はどうしても受動的になりがちで「分かったつもり」で終わってしまうこともあります。やはり、自分の頭で考え、手を動かして試行錯誤することが重要です。授業内容の理解を補完する形で動画を活用すると、より深い学びが得られるのではないでしょうか。
読書が好き
読書が好きで、読書日記をつけています。たまに振り返ると、自分の読書傾向とその時期の活動が密接に結びついていることに気づきます。例えば、登山に熱中していた時期には登山やサバイバル関連のノンフィクションをよく読みましたし、別の時期にはスキルアップに関する本を読んでいました。読書を通じて、その時々の自分の経験や思い出が鮮やかに蘇るのが面白いところです。
チャンスを逃さないで
学生時代、生協の本コーナーや図書館に頻繁に通い、専門書を読み漁っていました。その中で、今回紹介したような人生を変える一冊との出会いがありました。何がきっかけになるかは、後になって初めて分かるものです。アンテナを広く張り、訪れるチャンスを逃さないことが大切だと思います。
紹介した本
『ヒルベルト空間と量子力学』新井朝雄(著)、共立出版
理学部広報誌「彩」第12号(2025年2月発行)掲載。>理学部 広報・刊行物
※肩書、所属は、広報誌発行当時のものです。