6 理学部創立100周年カウントダウン講演会「フィールド研究から博物館へ」

北海道博物館 学芸主査 表 渓太 氏

第6回 理学部創立100周年カウントダウン講演会が、2025年9月29日(月)に開催されました。理学部は2030年に創立100周年を迎えます。輝かしい100周年に向けて同窓生をはじめ、お世話になったみなさまにバトンリレーのように語っていただく企画です。

今回の話題提供者は、表 渓太さん(理学部生物科学科生物学専修卒業/現在、北海道博物館 学芸主査)です。「フィールド研究から博物館へ」と題して講演してくださいました。

講演会に続いて、ホームカミングデー理学部企画として、12名の同窓生のキャリアトークや22のブース展示が開催され、約150名の同窓生、学生、教職員が集まり有意義な一日となりました。

「フィールド研究から博物館へ」

自然への好奇心

子どものころから動物の痕跡を探したり、木の実を採ったり自然の中で過ごし、振り返ればそれが研究の第一歩だったように思います。中学校では「地域研究部」、高校では「山岳部」で自然と密接に関わる日々を過ごしていました。進路を選択する際、理学部と農学部で迷っていたところ、北大のオープンキャンパスで理学部の教授が「興味の向くまま究めるのが理学部」という言葉を聞き、理学部進学を決めました。

楽器やかんじき、動物模型などの製作が趣味
北大でのフィールド調査と研究

学部の時は北大ヒグマ研究グループ(通称クマ研)というサークルに所属し、ヒグマ調査や、青森県下北半島に生息する世界最北のニホンザルの調査などに参加しました。生物科学科/生物学専修4年時に、増田隆一教授の多様性生物学講座(増田研)に入り、フィールド調査での直接観察や痕跡調査に加えて、DNA分析を始め、研究をより深めていきました。その時に、古い標本を用いた経験から博物館資料の価値を認識しました。

シマフクロウ研究

増田研では、主にシマフクロウの系統地理や集団遺伝学などを研究しました。シマフクロウは、北海道やロシア極東に生息する世界最大級で、魚を主食とする珍しいフクロウです。国内外の標本からDNA解析を行い、北海道とロシアの個体群が約50万年前に分岐していたことを明らかにしました。
この調査では、ロシアやマレーシアにも行きました。国際的なフィールドワークは現地の人との関わりも含めて、研究者としての視野を広げる貴重な経験となりました。

会場の様子
学芸員資格の取得

修士課程在学中、研究に加えてアウトリーチ活動にも関心を持ち始めました。幸いなことに、北海道大学総合博物館には学芸員資格を取得するための課程が整備されていて、修士2年のときに学芸員資格を取得しました。しかし、資格を得ても学芸員の募集は全国的に非常に少ないのが現実です。そんな中、博士課程2年目に北海道博物館の動物担当の募集が出たことは、またとないチャンスでした。倍率40倍の選考に応募し、採用されて博士課程3年に進級すると同時に就職、学業と博物館勤務を両立させました。

博物館での活動

現在は、北海道博物館で、北海道とその周辺の動物資料の収集、研究、教育への活用に携わっています。例えば、子ども向けレクチャーや自然観察会を企画・実施したり、常設展や特別展示の企画・展示制作・運営などをしています。
サハリン州立博物館と連携を結んでいたので、サハリンでナキウサギやカワウソの調査をしたこともあります。クマやトナカイなどの痕跡にも出会いました。これらの調査結果も特別展で紹介しました。

体験型の展示例として、タンチョウの鳴き声を再現した手作りの笛を持ってきました。実際のタンチョウの気管の長さに合わせて設計し、奇数列の倍音(7倍音や11倍音など)も重なる、タンチョウらしいよく響く音を再現したこだわりの笛です。ここで吹いてみます。

タンチョウの鳴き声を再現した笛(再生すると音が出ます)

北大理学部での経験が今につながる

理学部の強みは幅広い分野を学べることです。特に実習は非常に有意義でした。フィールド研究の経験や体力など、理学で得た全てが今の仕事に役立っています。日本語・英語双方での論文執筆や添削指導の過程は、今もなお、私にとって有用な学習経験となっています。

メッセージ「今しか行けないところに行こう、遊び心は忘れずに」

好きなことを突きつめてみてください。今しか行けないところはたくさんあると思います。そして学生だからこそ挑戦を続けてほしいです。私も、増田研究室時代に行ったさまざまなフィールドでの経験はかけがえのないものでした。そして、その中で遊び心、楽しいと思う気持ちは常に持ち続けてほしいです。

質疑応答では、温暖化による動物の生息域の変化に注目していきたいこと、展示などは実物の構造に忠実に製作するよう心がけていることを答えました。

プロフィール:
東京都立立川高等学校出身。2011年北海道大学理学部生物科学科生物学専修卒業、2016年大学院理学院自然史科学専攻博士課程修了、博士(理学)。学部1年からヒグマやニホンザルなどのフィールド調査に関わる。大学院ではシマフクロウの系統地理や遺伝的多様性の研究に取り組む。2015年から動物担当の学芸員として博物館に勤務。自然をテーマとした展示や観察会などのイベントを企画している。趣味は木登りや細工物。

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※肩書、所属は、講演会当時のものです。

撮影:濱畑隆太さん(物性物理学専攻)
撮影・文責:松本ちひろ(広報企画推進室)

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