いまこそ「友」
コロナ禍に見舞われ、かつてなく「孤独」「孤立」が問われています。いまこそ友人や仲間との思い出、会えなくてもつながっている心強さ、リアルに会うことの大切さなどを感じるときです。研究者も時には悩み苦しみ、そして仲間に支えられ豊かな経験をしています。各学科の教員に話を聞きました。
【数学科】齋藤 睦 教授
函館市出身。東北大学で修士号、ペンシルベニア州立大学で博士号取得。線型偏微分方程式系を微分作用素環の加群と考えて代数的に研究している。
数学好き
小学生のころから算数が得意で、そのまま中学・高校でも数学が好きでした。高校時代の同期生で麻雀仲間だった野呂正行君は数学が非常に得意でした。彼は月刊誌「大学への数学」の中の「宿題」や「学力コンテスト」という企画に解答を送っては、優秀者として頻繁に名前が掲載されていました。
私も野呂君に触発されて、何度か解答を送ったことがあります。数学が好きなことに加えて野呂君との出会いもあり、自然と数学の道に進みました。
アメリカ留学での出会い
大学院生の時、アメリカに留学し博士号取得を目指すことになりました。留学中は、数学専攻の留学生仲間3人(森吉仁志君、香港出身のロー・ウィンタイ君と私)で同居していました。一緒にオリエンタルショップに買い出しに行き、当番制で料理し、食事をしていたのも楽しい思い出です。不慣れな外国で、研究も生活も仲間と助け合い共に過ごした数年間は、かけがえのない経験です。ちょうど天安門事件があり、ウィンタイ君がテレビを食い入る様に見ていたのが印象深かったです。20代後半の頃の話です。
今でも交流
その後ウィンタイ君は、シンガポールで銀行家になりました。今でもときどきメールで連絡を取り合っていますし、彼が北海道に家族で来た時には旧交を温めました。森吉君は、現在名古屋大学で研究を続けています。お互い大学教員という立場なので昨年、大学に関する相談という口実でZoomをしましたが、相談は早々に切り上げウィンタイ君の話など昔話で盛り上がりました。高校の同期生の野呂君も数学者になり、私と研究分野も近いことから、今でも学会で会うことがあります。やはり気心知れた旧友との交流は、いつになってもよいものです。
出会いで人生豊かに
研究生活においては、1992年に北大に着任したころの高山信毅さんとの出会いにとても感謝しています。高山さんは私の研究に興味を示してくれ、彼を通して多くの人と知り合うことができ、研究も人生も広がりました。その中の一人がウィル・トラベスさんです。ある研究会でウィルと私が全く別のアプローチでほぼ同じ研究をしていることが分かり、それをきっかけに共同研究を始めました。ウィルは数学者ですが、米海軍士官学校に勤めており、彼の職場を訪問させてもらったこともあります。数学というのは一人で考える時間が多い学問ですが、いろいろな人と出会うことで、新しい経験や発見ができます。私も多くの出会いを経て、人生が豊かになったと感じています。
心の友
学生時代に一緒に同じ目標に向かって頑張っている仲間が、人生を通して最も大切になってくると思います。10年、20年、いや全然会わなくても共に頑張っているという感覚はとても心強いです。コロナ禍を同じように過ごした仲間ではなおのこと、同志的な感情が共有されるのではないでしょうか。
理学部広報誌「彩」第8号(2022年8月発行)掲載。>理学部 広報・刊行物
※肩書、所属は、広報誌発行当時のものです。