理学部の会議室には10点の絵画が飾られています。大学の会議室にこれほどの絵画が並んでいることはあまりないことです。今回は、この中で特に異彩を放っているパリ会議(昭和4年)で購入した油絵について紹介します。
パリ会議が終わった後、田所哲太郎(後の理学部長)の友人の画家がパリにいたことから、その友人の紹介で絵が安く買えるとの話がありました。「それでは5点ほど購入して、理学部の会議室に飾ろう」という話になりました。
そのうちの一点にパリの女優(あまり有名ではなかったそうです)をモデルにした絵がありました。ところが、女優の絵を会議室に飾ってもいいものかという議論が起きました。その議論中、中谷宇吉郎は絵を飾ることに大賛成し、女優の絵は会議室に飾られることになりました。
女優をモデルにした「夫人像」
その後、ある会議の時に物理教室の仲間から「あの絵の何がいいのですか」と質問され、答えに窮した中谷は、とっさに「ああいう絵のことを、いい絵だというのです」と返事をして、その場を切り抜けました。
また、中谷が恩師である物理学者の寺田寅彦にこの絵の話を手紙に書いて送ったところ、すぐに返事が届き、そこには「女優の絵を飾る理学部なら、前途は洋々たるものがある」と書かれていたそうです。
返事に喜んだ中谷は「このような絵を会議室に飾っている大学は、日本では北大の理学部だけであろう。このようにおおらかなのびのびとしたところから、良い研究が育つのです」と話したそうです。
この話の後、中谷は雪の結晶の研究を始め、人工雪の製作に世界で初めて成功するという偉業を成し遂げました。自ら良い研究を実践し結果を出したということです。
それから90年近くを経た現在も、会議室には女優がモデルの「夫人像」が飾られています。そして、その隣にはベルサイユ宮殿が描かれた「並木道」、正面左側には「街角」の3点の油絵が飾られています。
ベルサイユ宮殿が描かれた「並木道」
これからも、北大理学部というおおらかなのびのびとした環境のもとで、新たな発見につながる研究が続くことでしょう。
(文:北海道大学理学部同窓会 事務局長 髙橋克郎)
※会議室は現在も使われていることから、一般には非公開となっています。ご了承下さい。
※タイトルの絵は「街角」
理学部広報誌「彩」第5号(2019年8月発行)掲載。>理学部 広報・刊行物