学部を選ばずに入学できる北海道大学に進学し、10代最後のモラトリアムを満喫した後に目指した進路は「理学部」でした。最先端の研究に惹かれ、生物科学科の高分子機能学を志望しました。「この世にない新しい物質を自分で創造してみたい」「体内で働く分子の機能を解明して生命の謎に迫りたい」という思いからです。
西村紳一郎教授の指導の下、細胞の内外で働く「糖鎖」の研究に携わり、実験に明け暮れました。研究は思い通りにいかないことが多く、なかなか成果が上がらないこともあります。そんな時に、ふっと突破口が開けたり、面白い実験結果が得られたりするそんな楽しい瞬間に誘われて、研究の世界に没頭していきました。
大学院時代に米ジョン・ホプキンズ大学へ留学すると、一気に視野が広がりました。どの分野でもそうですが、研究者の舞台は、はじめから世界です。高度な英語力が絶対的に必要であることを再認識しました。学生の皆さんにも、ぜひ海外へ出てみることをお勧めしたいです。
博士取得後は、北大の先端生命科学研究院で10年ほど糖鎖科学や細胞生物学に関わる研究に従事しました。また、この間に結婚して3人の男児を出産するというライフイベントも続きました。長男が小学生になり、地域との関わりが増えたことから、地域や経済にも関心を持つようになり、これまでの「自宅ー研究室ー保育園」を往復する生活に物足りなさを感じるようにもなりました。
そんなときに舞い込んだのが、北海道経済産業局バイオ産業課で働いてみない?というお誘いです。ライフサイエンス分野の産学連携やベンチャー企業を支援する仕事です。政策を立案し、企業や人をつなげる行政の方たちと一緒に、素晴らしい技術や製品を持つ数多くの道内企業を回りました。有望な地域産業を成長させるため、いかに多くの人が関わっているかを知りました。「産官学」の力が結集されて社会と経済がダイナミックに動いていく現場に立ち会うことができました。
その後、再びご縁があり、現在は、北大の人材育成本部女性研究者支援室で科学技術分野における女性の参画促進をテーマに仕事をしています。大学組織を運営する側から、女性研究者がより活躍しやすい環境を整えていくことが仕事です。もちろん、一研究者として、また、子育て真っ最中の母親として、これまでの経験がすべて生きています。
研究だけではない様々なキャリアを持つ私が、若い学生の皆さんに伝えたいことは「まずは目の前にある研究に没頭してみよう!」ということです。研究に没頭すると視野が狭まるかというと、むしろその逆です。おもしろくて好奇心がわき、多くの人の教えを受けて、そこから新しい出会いが生まれます。そうして人間関係が広がる中で、新しいチャンスが巡ってきた時には、迷わず飛び込んでみてください。人気の企業に就職すれば安心という時代は終わり、自らキャリアをデザインする時代です。自分の力を信じて、一歩一歩、未知なる世界を探検してください。
長堀 紀子さん
1997年 理学部卒業/2002年 大学院理学研究科博士課程修了 博士(理学)
北海道大学人材育成本部 女性研究者支援室特任准教授
理学部広報誌「彩」第5号(2019年8月発行)掲載。>理学部 広報・刊行物
※肩書、所属、学年は広報誌掲載当時のものです。