口流生き

井ノ口 順一 教授(数学科/幾何学)

#metime(ハッシュタグ ミータイム)〜研究者の自分時間〜

研究者って研究ばかりしているのでしょうか。北海道大学理学部各学科の研究者に、自分らしく過ごしている時間や、これまで力を注いできたことについて話を聞きました。「趣味」という言葉では表せないほど、どの研究者もそれぞれに真剣に向き合っており、本気度が見えてきます。理学部の魅力的で多様なmetimeをお楽しみ下さい。

※ Me time:time devoted to doing what one wants, typically on one’s own, as opposed to working or doing things for others, considered as important in reducing stress or restoring energy. 他の人のためではなく、自分がやりたいこと、自分自身で行うことに充てられる時間。ストレスを軽減したりエネルギーを回復したりするのに重要であると考えられている。(オックスフォード英語辞典より)

井ノ口 順一 教授(数学科/幾何学)
1967年、千葉県銚子市出身。文学や歴史、文化、芸術等を数学的視点で楽しんでいる。古い建築好き。築約100年の理学部本館を目の前に仕事ができて幸せを感じている。ハニカム構造の説明用にお菓子の箱を集めたり、缶に描かれた和文様に興味を持ち果物缶を集めたりしたこともある。

実は結局、無趣味?

純粋に楽しめないと趣味とは言えないと思っています。私の場合、何か興味を持って始めても、仕事に結びついてしまって、結局趣味ではなくなってしまうことばかりです。いろいろやりたかったことは数知れず……時間がなく諦めたものもあります。なので「趣味はなくなっていく」と言うのが本音でしょうか(笑)。でも北海道に来たのでシマエナガに会いたいな(仕事には結びつかないはずです)。

仕事に結びついてしまうとは?

例えば、建築や工業デザインに興味津々ですが、つい専門の数学的・幾何学的な視点で観てしまいます。気づいたことを学会や著書で公表すると、様々な分野の方から相談が持ち込まれます。私自身、いろいろな分野に興味があるので喜んで相談に乗るのですが(この時点ではほぼ趣味)、数年経って気付くと、それが仕事(CREST等)になってしまい義務や責任、締切が生まれ、純粋に楽しめなくなってしまうのです。

なぜ数学の道に?

子ども時代、本物の研究者が書いた児童書が読みたくて。将来は自分が作り手になろうと夢みていました。中学2年のとき、野鳥の会に入りました。小学生の時から天文少年だったので高校で地学部を立ち上げたり。ネイチャーカメラマンと研究者を一人でやろう。それが高校生のときに思い描いた将来像でした。数学好きではなかったのです。
大学受験の結果、数学の道に進むことになりました。天文学者にもなりたかったので、一般相対性理論に近い数学である微分幾何学を専門にしました。今も天文学に関わりたい気持ちは続いています。

ハニカム構造の説明用に集めたお菓子箱
様々な活動をしてきたそうですね

児童書に携わりたいと思っていましたが、それは叶いませんでした。カウンセラー養成講座にも通ったりとさまよって。大学院生のときに数学の市民講座を始めました。元々興味があった歴史や文化、芸術などを数学に結びつけて紹介したら好評で。文科系大学でも講義を担当しました。その内容は「どこにでもいる幾何‒アサガオから宇宙まで‒」(日本評論社)として出版できました。数学一筋ではなく、数学を軸に紆余曲折して生きてきました。高校の先生たちと教材開発もしていますよ。

数学が趣味と言えそうです

数学を使って新しい何かを生み出すことを考えるのが好きですね。異分野どうしを数学でつなげたり、何かに数学的なしくみを見つけたり。いわゆる「証明する数学」だけではなく、「創る数学」をしたいと心がけています。私のようなタイプの数学者は珍しいと思っています。

数学のすゝめ

数学が好きで迷いがない人は、数学を存分に楽しんでください。まだ何をしたらよいか分からない、進路を決められない人は、まず数学を学んでみてはいかがでしょうか。数学から様々な方面に飛び出して、何でもやりたいことができると思います。例えて言うなら、外国語を習うようなものです。外国語ができるとコミュニケーションに有利ですよね。数学も共通語の一つです。数学が分かればいろいろな分野の人と会話ができる。もっと言えば時空も越えて理解しあえます。言葉(数学)に自信がついてから本当にやりたいものを探したってよいのです。

 

理学部広報誌「彩」第10号(2024年2月発行)掲載。>理学部 広報・刊行物

 

関連リンク:数学科 井ノ口順一教授からのお題「分数の通分を折り紙で説明する」〜1/2+1/3の実演〜

※肩書、所属は、広報誌発行当時のものです。

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