理学部生物科学科(高分子機能学)では、キャリアパス教育の一環として、2、3年生を対象にした学科イベント「DCは語る」(DC:Doctoral Course=博士課程)を定期的に開催しています。博士課程の学生の研究生活や進学経験を聞くことで、進路の一つとして博士課程進学を考えてもらうことが目的です。2023年6月16日は、生命科学院 ソフトマター専攻 博士3年の西村 拓哉(にしむら たくや)さんが学部3年生に向けて話をしました。
西村さんは、理学部生物科学科(高分子機能学)を卒業後、生命科学院ソフトマター専攻に進学し、現在は転成ソフトマター研究室(黒川研究室)に所属しています。
転成ソフトマター研究室、爆誕!
修士課程までは、「ソフト&ウェットマター研究室」に所属していました。ところが、博士課程への進学直前に、研究室が2つに分かれることになったのです。僕は、新たに誕生した「転成ソフトマター研究室」へ移りました。研究室の方針やルール、後輩の育成や研究戦略について、仲間と共に考え作り上げる経験をしました。苦労も多かったですが、そのお陰で大きく成長できたと感じています。
ゲルの内部構造に迫る
ハイドロゲルは、高分子の作るネットワークが大量の水を含んだやわらかい物質で、生体材料への応用も期待されています。従来の方法では、ハイドロゲルの内部構造(電解質ネットワーク密度分布)を定量的に知ることは難しかったのですが、私たちは画期的な手法を開発しました。
微小電極法という、細胞内の電位を測定する方法をゲルに応用しました。細いガラス電極をゲルに刺し込みながら電位を測定すると、ゲル内部の電解質ネットワーク(電気を帯びた高分子のネットワーク)の粗密を電位として定量化できます。つまり、構造特定が可能になるのです。この手法で、例えばゲルの物性と内部構造の関連性を調べると、さらに強靭なゲルを作ることが可能です。
博士課程で感じたこと
博士課程では、何よりもメンタル力が求められると思います。研究成果を出すことへの重圧が大きくなり、将来への不安も増える一方で、同期や相談相手は少なくなりがちです。精神的に辛くならないように、博士に行こうと考えている人は修士の段階から対策を取ってほしいです。
また博士課程を修了すると、論理的思考力が鍛えられる上に、博士号という世界共通の研究者資格が得られ、研究者として第一線で活躍できるという大きなメリットがあります。一方で、身に付けた専門性のために進路が狭まるデメリットもあります。メリット・デメリットは人によって異なるので、よく考えて進路を選択してください。
2回の就職活動を経て
修士課程では、ある程度の研究成果も出ていたし、実験も楽しいと感じていました。それでも修士課程で修了する予定で就職活動を行い、化学メーカーに内定をもらっていました。そんな中で、自分は研究すること自体が好きなのか、今の研究テーマがうまく行っているから楽しいのか、という疑問が浮かび自問自答するようになりました。そこで、それを確かめるために、内定をお断りし、博士課程に進学することを決意しました。
現在では研究そのものも楽しいと感じていますが、それ以上に頭を使って研究戦略や考察を練ることが好きなのだと気づきました。博士号取得後はコンサルティング会社に就職する予定です。戦略を立てる側に回り、化学メーカーのサポートをしていきたいです。
※肩書、所属、学年は2023年インタビュー当時のものです。