享年95歳。世界的な発生生物学者として活躍された柳町隆造先生(北大理学部卒業・ハワイ大学名誉教授)が2023年9月28日(日本時間)にご逝去されました。
柳町先生は約1年前の2022年7月26日に北大理学部を訪れ、教職員、学生らに貴重なメッセージとエールをおくって下さいました。若い世代に向けた温かいまなざし、研究・教育にかける情熱、そして優しい人柄は、世界中の生物学者、生物学を学ぶ若者たちだけでなく、学術に携わる多くの人々から慕われ、尊敬されていました。「2030年に創立100周年を迎える北大理学部のセレモニーにも参加しますね。」と約束してくれた柳町先生。柔らかな笑みを絶やさず、温かい口調でお話しされる柳町先生にお会いし、これまでの感謝の気持ちをお伝えしたいのですが、それが叶わなくなったことは無念でなりません。
ご冥福を心よりお祈り申し上げます。
柳町先生は江別市に生まれ、札幌で育ちました。北大理学部を卒業後、高校教員として働き、北大で理学博士の学位を取得されました。ハワイ大学に着任後は一貫して動物の受精について研究し、ハムスターを用いて、世界で初めて体外受精(卵子と精子をシャーレ中で受精させ、メスの子宮に戻し子を産ませる技術。ヒトでは不妊治療に用いられている)に成功。発生生物学とクローン技術の発展に先駆的に貢献しました。のちにケンブリッジ大学教授となるロバート・エドワーズさんが、この技術を柳町先生から学び、イギリスに持ち帰ってヒトの体外受精を成功させ、2010年にノーベル医学生理学賞を受賞しました。この体外受精技術の確立はルイーズ・ブラウンさんを始め、多くの命の誕生に寄与したと言われています。柳町先生の技術が元となったので、柳町先生も受賞すべきではないかと世界的な声が上がり、実際に受賞候補者に挙がっていたという話もあります。しかし柳町先生は、この技術をあくまでも、生物がもつ「受精」という生命現象の解明に用いるというスタンスを貫かれました。
魚類やホヤなど、哺乳類以外の生物を使った基礎研究も続け、幅広い分野への重要な礎となる理学の精神を体現されました。クローンマウスの作製にも世界で初めて成功されており、現在の発生・生殖医療への柳町先生の貢献は計り知れません。
1996年に国際生物学賞受賞、2001年に米科学アカデミー会員に選出され、本年6月には、科学や文明の発展に貢献した人に贈られる「第38回京都賞」(稲盛財団主催)に選ばれたばかりでした。11月の授賞式のために来日することが決まっていた矢先の訃報でした。ご遺族および柳町先生を師と仰ぎ世界で活躍する多くの研究者の悲しみは、いかばかりかとお察し申しあげますとともに心から哀悼の意を表します。
ハワイ大学が発表した追悼文で、柳町先生の功績が詳しく紹介されていますのでご覧下さい。また、柳町先生が残して下さったビデオメッセージ「三脚の原理を携えて」を紹介いたします。
最後に。柳町先生、どうか安らかにおやすみください。先生のあくなき探究心と情熱を受け継ぎ、北海道大学理学部として研究教育活動に勤しむことをお誓いいたします。
2023年10月2日
網塚 浩 北海道大学 理学部長/北海道大学 大学院理学研究院長
黒岩 麻里 北海道大学 大学院理学研究院 生物科学部門 教授
教職員一同