物理学者がウニ冷凍技術を開発!(野嵜龍介教授)

理学部 物理学科 野嵜 龍介 教授

野嵜龍介教授(凝縮系ダイナミクス研究室)は2019年に「冷凍ウニの新製法開発」の特許を出願しました。固体、液体、過冷却液体、ガラスといった凝縮系の粒子のふるまいを研究している物理学者が、どのようにして生ウニの冷凍技術開発に至ったのか話を聞きました。

液体の定式化、それは未解決重要課題

物質には気体・液体・固体の状態があります。気体と固体に関しては、熱力学や固体物理学の分野で定式化(普遍的な状態を数式で記述すること)がほぼされていますが、液体の定式化は進んでなく、大きな未解決課題の一つと言われています。

私は液体の中でも過冷却液体について研究しています。液体に電場をかけた時の分極過程を利用し、粘性に関する分子の動きを観察します。液体を冷却していくと一般的には結晶になりますが、結晶にならずに過冷却液体つまり粘性の高い状態になり、さらに冷やしていくとガラス状態になるものがあります。物理学は物質の違いではなく、そこに隠れている普遍性を追求する学問なので、液体である水、過冷却液体やガラスなど、一見硬さも温度も違うものも、全てアモルファス状態と考えることができます。この考えをもとに液体を普遍的に記述したいと思いながら研究をしています。

氷を結晶化させない

もともとタンパク質が水に溶けているような生体関連物質の水溶液に興味がありました。そこで注目したのが、分子構造が比較的単純で、かつ分子構造を変えられるポリオールという物質です。キシリトールやソルビトールという糖アルコールもその仲間です。ソルビトール水溶液は70〜80℃ぐらいでドロドロ状態、室温付近でカチンカチン、もっと冷やすと割れるほど硬くなります。しかし低温でも氷の結晶は育っていないので、実は凍っていません。これが過冷却液体です。食品を冷凍・解凍するときに組織が壊れる理由である氷の結晶化が起こらないのです。食品をソルビトール水溶液に浸けた状態で冷凍・解凍すれば、これまで冷凍に不向きと言われていたものでも、元の状態を保ったまま長期冷凍保存ができると考えました。

やるならウニだ

せっかく北海道に住んでいますから、私の研究を地元に役立つことに使いたいと考えたときに、経済産業局や北海道庁の関係者から「やるならウニだ」と言われました。生ウニの出荷方法として現在は塩水パックがあります。しかしこれはわずか数日しか日持ちせず、振動にも弱く輸送によってバラバラになり濁って商品価値が下がります。もし保存可能期間を少しでも延ばせたら、その技術は価値が高いと言われました。「やるならウニだ」と決めました。

カナダでの氷上魚釣りの経験

ウニの冷凍保存が成功する確信はありました。背景には、かつてカナダのケベック州で研究生活をしていたときの釣りの経験があります。外気温マイナス30℃の氷上でトムコッド(鱈の一種)を釣り、自然に凍ったものを持ち帰ります。帰宅して調理しようとすると、シンクの中で魚が生き返っていたのです。ですから、生物はうまくできていて簡単には壊れず、ましてや単純な生物であるウニなら、冷凍・解凍後も元に戻ると思いました。

予想通り

ソルビトール水溶液にウニを浸け、マイナス30℃まで温度を下げ硬くなった過冷却状態で保存できれば、保存期間を延ばせると考えさっそく試してみました。過冷却状態で保存したものと、冷蔵庫でただ保存したものを一週間後に食べ比べたところ、予想は的中しました。黄色いバフンウニが少し赤くなったり、若干甘くなったりしましたが、条件を調整すればきれいでおいしい生ウニが保てると考えました。

異分野融合の成果

北海道立総合研究機構(道総研)にこのウニの話が伝わり、共同研究をすることになりました。道総研が物質調合、糖アルコールなどの水溶液の濃度や温度などの条件を研究し、また、事業化に興味を示したウニ加工・出荷を行う企業がトラック輸送実験などに協力してくれることになりました。その後一年ほどで見た目も味もよく、輸送にも耐えられる成果が整い、2019年に特許を出願し、2021年に新聞に掲載されました。

冷凍前の生ウニ
過冷却液体で冷凍後、解凍したもの(写真左)。冷凍機の振動を抑えて凍らせるとよりきれいに解凍できる(写真右)

私が物理学の立場から過冷却液体を使った生ウニの冷凍法を発案し、それを生物や化学、流通などの専門家がおいしく美しく保存するために研究を進めました。まさに異分野融合の成果です。この技術が実用化され、近い将来、日本中、世界中の人においしい生ウニを好きなときにいつでも食べてもらいたいです。楽しみにしていてください。

専門外へ目を配ってほしい

修士や博士課程に進学し研究を進めていくと、どうしても視野が狭くなりがちです。研究者を目指すなら、自分の専門性を追求するのは当然ですが、それだけではなく、専門外へも常に目を配ることが重要です。まわりを見ると、ちょっとしたアイディアが転がっているかもしれません。広い視野をもって、さまざまなことを自分の研究に生かしてほしいです。

研究室に在籍している学生たちとの集合写真

野嵜 龍介(のざき りゅうすけ)教授
東京都出身。天体観望が趣味。若い頃はサイクリングにもよく行っていた。コロナ禍で車通勤になり運動不足が今の課題。

理学部広報誌「彩」第8号(2022年8月発行)掲載。>理学部 広報・刊行物

※肩書、所属、学年は広報誌発行当時のものです。

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