1 理学部創立100周年カウントダウン講演会(後編)

坂井俊介 氏(地球惑星科学科・理学研究科OB、現在グーグル・クラウド・ジャパン/パートナーエンジニアリング技術本部長)

2021年9月25日(土)にオンラインで開催された、第1回 理学部創立100周年カウントダウン講演会(後編)をお届けいたします。理学部は2030年に創立100周年を迎えます。輝かしい100周年というイベントに向けて、同窓生をはじめ、お世話になったみなさまにバトンリレーのような形で、理学の未来について語っていただこうと企画しました。記念すべき第一回目のゲストは坂井 俊介さん(地球惑星科学科出身、現在グーグル・クラウド・ジャパン/パートナーエンジニアリング技術本部長)です。「グローバルIT企業のカルチャーと私のキャリア形成」と題してお話しいただきました。

前編:1.「グローバルIT企業のカルチャー 最新IT業界の動向」から続く)

2.「私のキャリア形成」

インターネットとの出会い

北海道大学理学部地球惑星科学科を卒業後、理学研究科地球惑星科学専攻に進学しました。当時、大学院生の部屋は、理学部本館(現在は総合博物館)3階の角にありました。

インターネットの黎明期でしたので、学生はインターネットに接続する環境を持っていませんでした。だったら、自分たちで作ろうと考えたのです。物理的にLANケーブルを作成して館内に張り巡らせることから始めました。一つのIPアドレスを共有するためのプロキシサーバーと呼ばれるものを仲間と共に構築しました。その作業が面白かったことと、それによって仲間たちがインターネットにアクセスできるようになって喜んだことが、IT業界の道を選んだきっかけかもしれません。

最初の就職

インターネットの沼にどっぷりとハマった私は、システムインテグレーターや、システム・コンサルティング会社への就職を希望しました。最終的にフューチャーシステムコンサルティング、現フューチャーアーキテクトに入社します。「社会人最初の3年の過ごし方が、その後を決める」と、当時の会社役員から言われた記憶があります。まったくその通りで、当時身につけた働き方、仕事の進め方が、今の仕事にも影響を与えています。しかし早く一人前になりたくて寝る間も惜しんで仕事をしたため、働きすぎて燃え尽きてしまいました。そこで気分を一新するために、なおかつ苦手意識のあった英語克服のため、海外に行くことにしました。

オーストラリア修行

オーストラリアに一年間ワーキングホリデーで滞在しました。最初の3か月は語学学校に通い、次の3か月は現地企業のITヘルプデスクのエンジニアとして、アジア地域をサポートするチームで働きました。英語は片言でしたがマイクロソフトの資格が身を助けてくれました。そして残りの6か月は単身バックパッカーとして、オーストラリアの西側を中心に旅しました。一年間の滞在を通して度胸がついたと思います。

帰国後、紆余曲折を経てGoogle Cloudへ

帰国後札幌に住まいを戻し結婚し、オープンソースのベンチャー企業でエンジニアとして働き始めました。しかし、入社後2年経ずに会社が倒産し、将来がとても不安になったことを覚えています。

ここでミラクルが起きます。オーストラリアで出会った北大同窓生の紹介で、Microsoft北海道支店のエンジニアに採用されました。当時Microsoftの競合であったオープンソースについて専門知識があったので重宝されたのです。「捨てる神あれば拾う神あり」です。Microsoftでは、プリセールスエンジニア(技術営業)として北海道支店で働き始めましたが、3か月もしないうちに東京への転勤を命じられました。その後、紆余曲折あり、2019年12月からGoogle Cloudと呼ばれるクラウドサービスを日本で販売する部隊のパートナーエンジニアリング技術本部の本部長として、Google Cloud の普及に努めています。

すべての経験が今につながる

MicrosoftはGoogleに比べれば歴史があって伝統的な会社ですが、2014年にCEOがサティア・ナデラ氏に代わってから、イノベーションのジレンマを見事に乗り越えて、新しい会社に生まれ変わりました。Googleがボトムアップの会社であるならば、Microsoftはトップダウンの会社です。10万人規模の大企業でありながら、トップダウンで大きな舵取りを行い、毎年目まぐるしく状況が変わります。次から次へと新しい製品、サービスを開発、組織も毎年変わるので、飽きることがありませんでした。数値に対する執念、プレッシャーも強かったです。ビジネスがクラウドに移行してからは、特にスピード感が上がり、ドッグイヤーどころかラットイヤーで動いていると思います(※)。スピード感、グローバル企業の経営、サティア・ナデラ氏による大改革を、身をもって経験できたことは、本当にエキサイティングで貴重な経験でした。そして今、その経験がGoogleで存分に活かされています。

このようにすべての経験が繋がって、今に至っていると感じます。当時の私は、ただ目の前のことに必死でした。しかし振り返れば、無駄な経験は一つもありませんでした。

※ドッグイヤーとは、IT業界の技術進化の早さを、犬の成長が人と比べて7倍速いことに例えた語である。ラットイヤーはさらに20倍速く、成長が極めて早いことの例え。

学生の皆さんへのメッセージ「英語は学んだ方が良い」

英語はいまのうちに苦手意識を無くしておいた方が良いです。外資系企業に勤めるかに関わらず、世界はどんどん狭くなってきています。多様な人脈、多様な経験をするためにも、英語は助けになります。

点と点がつながると信じて

2005年に、スティーブ・ジョブズがスタンフォード大学の卒業式で卒業生に贈ったメッセージの一つを紹介します。素晴らしいスピーチで感銘を受けました。

「将来を見据えて、点と点を結びつけることはできません。後で振り返ってみたときにしか、点と点を結びつけることはできないのです。だから点と点が将来へ結びつくことを信じなくてはなりません。自分の直感、運命、人生、カルマ。たとえそれが何であれ、信じなくてはならないのです。」

大好きな一節です。学生の皆さんは、将来に不安を感じることがあると思います。でも、未来のことは誰にも分かりません。私が学生の時にAmazonもGoogleも生まれたばかりで、日本ではその存在をほとんど知られていませんでした。しかし現在、私はGoogleで働いています。このスピーチには他にも素晴らしいメッセージがあるので、知らない方は、ぜひ全文を読んでみて下さい。

人との出会いを大切に

スティーブ・ジョブズのメッセージをもう少し具体的に伝えます。多様な経験、多様な人との出会いを大切にしてください。Googleでは、多様な人がコラボレーションすることがイノベーションの源泉となっていると先ほども話しました。多様性に対する理解、それを包含していくスキルは、これからの時代に必須だと確信しています。私自身、多様な経験、多様な出会いがキャリアにイノベーションを起こしてくれたと思っています。

先日、早稲田大学大学院のビジネススクール教授の入山章栄(いりやま・あきえ)先生が、イントラパーソナル・ダイバーシティという話をしていました。これからの変化の激しい時代では、一人の中の多様性を高めることが、様々な変化に対応でき新しい価値を見出せる可能性につながると言っていました。ぜひ、「イントラパーソナル・ダイバーシティ」についても調べてみてください。

人脈のネットワーク理論をご存知でしょうか。価値ある情報、転職時における紹介というのは、身近な人からもたらされることはありません。ある程度、距離のある弱いつながりからもたらされます。身近な人は、情報の範囲が似ています。一方、弱いつながりの人は、気を遣い過ぎずに紹介できるものです。学生の皆さんも仲間内だけではなく、普段なかなか話せない人とのコミュニケーションを楽しむように心がけてみてはいかがでしょうか。

そして最後にもう一つ、私が20代後半に出会った、プランド・ハプンスタンス・セオリー(Planned Happenstance Theory: 計画的偶発性理論)を紹介します。「個人のキャリアの8割は、予想しない偶発的なことによって決定される。その偶然を計画的に設計して、自分のキャリアを良いものにしていこう」という考え方です。偶然を計画的に起こすための行動特性というものがあります。好奇心、持続性、柔軟性、楽観性、冒険心というもので、私はこれを拠り所に判断・行動をしてきたように思います。

参加者集合写真(一部)

坂井 俊介さんのプロフィール:
1976年生まれ。新潟県新潟市出身。1999年北海道大学理学部地球惑星科学科卒業。2001年同大学大学院理学研究科修了。学生時代は基礎スキー部で年間100日程度滑っていた。生物科学科・高分子機能学の黒川孝幸教授は基礎スキー部同期。地球惑星科学科と大学院では北海道横断の巡検やロシア・カムチャツカ半島最南端のパラムシル島での金鉱床の調査などを行う。2008年よりMicrosoft、2019年よりGoogleにて一貫してクラウド・テクノロジーの普及に務める。その間単身赴任を続けていたがコロナ禍を機に帰札。現在は妻、二人の息子、柴犬一匹と北海道を満喫しながらリモートワーク中。趣味は愛犬の散歩、ゴルフ。

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