第1回 理学部創立100周年カウントダウン講演会が、2021年9月25日(土)にオンラインで開催されました。理学部は2030年に創立100周年を迎えます。輝かしい100周年というイベントに向けて、同窓生をはじめ、お世話になったみなさまにバトンリレーのような形で、理学の未来について語っていただこうと企画しました。
記念すべき第一回目のゲストは坂井 俊介さん(地球惑星科学科出身、現在グーグル・クラウド・ジャパン/パートナーエンジニアリング技術本部長)です。「グローバルIT企業のカルチャーと私のキャリア形成」と題してお話しいただきました。
1.「グローバルIT企業のカルチャー 最新IT業界の動向」
DXと私たちの生活
DX(デジタルトランスフォーメーション)とは何か、一言では表現できません。しかし、あえてGoogleの採用面接では、「DXが企業にもたらす価値は何でしょうか?」という質問をします。明快な答えがないからこそ聞く価値があると考えているからです。私自身は「最新のデジタルテクノロジーを使って、商品、サービス、ビジネスプロセス、働き方をいま一度、再定義・再設計すること」だと考えています。とはいっても、ピンとこないと思いますので、私たちの日常生活を振り返ってみましょう。
では、私の1日の生活スケジュールを紹介します。朝6時に起床し、まずYouTubeを見ながら15分間筋トレをし、7時から犬の散歩へ出かけます。途中でコンビニに寄ってカフェラテを購入します。その時にApple WatchのPayPayで支払いを済ませます。8時に帰宅し、自宅で仕事が始まります。全てオンラインで17時ごろまで仕事をします。途中、Uber Eatsで昼食をデリバリーしてもらうこともあります。仕事の合間にAmazonで書籍、ゴルフ用品、生活用品などを注文したり、LINEやFacebookで友人とコミュニケーションしたりもします。仕事が終わると、また犬の散歩に出かけ、戻って家族と夕食をとります。その後、子どもたちとNetflixやAmazonプライム、YouTubeで映画や動画を楽しみます。このようにiPhone、Android、iPad、MacまたはChromebookのPCなしでは生活できないことは明らかです。これが私の1日のスタイルですが、いかがでしょう?このように多くのデジタルデバイスとデジタルサービスに頼っているわけですから、私の生活はDXの恩恵を受けています。コロナ前は想像できなかった世界であり、皮肉にもコロナ禍によって一気にDXが進んだと言えるのではないでしょうか。
マイクロソフトのCEO、サティア・ナデラ氏は2020年5月「コロナ禍によって、2年分のデジタル変革がわずか2ヵ月で成し遂げられている」と話しました。厚生労働省やテレワーク協会の最新調査結果によると、2〜3割は在宅勤務のようなので、私と似たような生活をしている方が2割はいると思います。日々の生活がデジタル化によって便利になっていることは間違いありません。便利なサービスは生き残っていくので、一定の時間をかけて徐々に皆さんの生活へ浸透して行くでしょう。
DXはビジネスプロセスの再定義
ただ、DXを内側から進めることは難しいと考えています。これまでのDXを見てみると、Amazonが本屋とスーパー業界に参入し業界構造を変えました。今度は医薬品にも参入しようとしています。Netflix、Amazonプライムがレンタルビデオ業界を変えました。Uberがタクシー業界を変えました。今度はテスラが電気自動車と自動運転で自動車業界を変えようとしています。さらにApple、Amazon、Googleが金融業を始めました。DXは、これまでのビジネスプロセスの再定義でもあり、業界の外側、異分野からデジタルの力を持ったプレイヤーが参入してきて変革を起こしています。一方で、業界の壁がユーザーの利便性を損なっていることも多くあります。DXは、デジタル化によって業界の垣根が無くなっていくプロセスでもあると言えます。その中で生き残るのは、デジタルに強い企業・組織であり、ライバルは業界内ではなく、業界の外にいることを理解することは、今後の皆さんの仕事のヒントになると思います。
GAFAM抜きには語れない
さて、いま一度、私の1日の生活を支えているサービス見てみます。これらサービスのプラットフォームに何が使われているかを見てみると、実は、NetflixやUber EatsのプラットフォームではAmazonやGoogleのクラウドサービスが使われています。そして、これらのサービスはAppleのiPhone、iPad、Mac、GoogleのAndroidやChromebook、またはMicrosoftのSurfaceやWindows PCを通して使われます。今起こっているDXは、これらの企業、Google、Amazon、Facebook、Apple、Microsoft抜きにして語ることはできません。私たちの生活にも深く浸透しており、大きな影響を及ぼしています。これらの企業は世界を席巻するグローバルIT企業で、それぞれの会社の頭文字を取ってGAFAM(ガーファム)と呼ばれています。それでは、GAFAMと呼ばれるグローバルIT企業は、どのようにして会社運営をしているのでしょうか。
Googleという企業
Googleは、1998年、当時スタンフォード大学で計算機科学の博士課程に在籍していた、ラリー・ペイジとセルゲイ・ブリンが検索エンジンを開発して始めた会社です。HP(Hewlett-Packard Company)、Appleと同様、シリコンバレーのガレージから始まりました。2020年時点でGoogle社員は10万人以上、拠点は60ヵ国に150オフィス、売り上げは2019年四半期で約4兆円、伸び率は19%になります。ちなみに、Google日本法人は2001年9月1日に初の海外拠点としてスタートしてから20周年を迎えました。
皆さんは、Googleは何の会社かご存知でしょうか? Googleのどんなサービスをお使いでしょうか? Google Mapは世界を変えたと思います。Google Street Viewも本当に便利です。その他にもGmail、Chrome、Google play、Google Drive、Google Photoなどは日常的にお使いいただいている方も多いでしょう。また利用者数が20億人と一番大きなサービスはGoogle 翻訳です。私も社内のコミュニケーションの半分は英語になりますので、日々、利用しています。このようにGoogleは皆さんの生活を変えるサービスを世に送り続けています。
Googleのカルチャー
さて、Googleでは、どのようにしてイノベーションを生み出しているのか。その仕組みやカルチャーについて紹介します。Googleでは、イノベーションを生むためのアプローチを9つにまとめています。その中でも私が特に紹介したいのは、「イノベーションは一人の天才ではなく、チームから生まれる」というものです。重要なキーワードは、「多様な人材」と「自律的な働き方」です。多様性のある人材がコラボレーションすることによって、イノベーションが生まれる。そのためには自律的な働き方が求められます。
Google CEOのサンダー・ピチャイは「会社を設立するにしても、国を率いるにしても、多様な声、背景、経験が混ざり合うことで、より良い議論、より良い判断、より良い結果が得られていると確信する。」と言っています。多様な人材が働く環境が会社の強みであり、成長の源泉になって良い結果を生み出すことを、トップ自ら繰り返し発信しています。そして、多様性について、7つの原則を定義しています。そのうちの2つ、「透明性から始める」「データを使用して意思決定を行う」原則について説明します。多様性を推進して行くために、一番重要なことは偏見とバイアスを排除することです。そのためには、データに基づいて判断し、可能な限り情報・データを公開して透明性を高める努力が重要になります。
多様な人材により良い結果を生み出す仕組み
次に多様な人材が自律的な働き方を実現してコラボレーションするための仕組みを紹介します。初めに、TGIFと呼ばれるものです。“Thanks God, It’s Friday.” の頭文字です。Google では2週間に1度、金曜日に全社ミーティングがあり、それをTGIFと呼んでいます。これは創業時から続いている習慣で、トップが直接、いま会社に何が起きているかを説明したり、開発チームがいま何を開発しているかをデモンストレーションしたりします。ここで重要なことは、トップ自ら透明性のある情報をオープンにすることです。
次に、全社員がOKR(Objectives and Key Results)と呼ばれる目標設定をします。そして自ら「ここは良くなかった。うまくいかなかった。次は、このようにしていく。」と話すことによって失敗を許容し合います。さらに、チャレンジを奨励します。このように質問を含めたフィードバックを非常に重視しています。ここで重要になってくることはサイコロジカルセーフティ(心理的安全性の確保)です。心理的安全性を確保することによって、社員が不安を覚えることなくアイデアを提供し、情報を共有し、ミスを報告するというカルチャーが作られます。
最後に、私も好きなピアボーナスという制度を紹介します。これは全社員が四半期に5人まで同僚に感謝の言葉と共にキャッシュをプレゼントすることができる制度です。例えば、スケジュールがバッティングして、自分が参加できないイベントを代わりに引き受けてくれた時や、通常の業務外の仕事を引き受けてくれた時などに、ピアボーナスを渡します。助け合いを推奨する取り組みは働く上で心理的な効果を上げてくれます。言った方も気持ちが良いですし、言われた方も「手伝って良かった」と思える、本当に良い制度だと思います。
いま、お話ししたGoogleの話はre:Workと、書籍『How google works』『WORK RULES!』に詳しく紹介されています。
坂井 俊介さんのプロフィール:
1976年生まれ。新潟県新潟市出身。1999年北海道大学理学部地球惑星科学科卒業。2001年同大学大学院理学研究科修了。学生時代は基礎スキー部で年間100日程度滑っていた。生物科学科・高分子機能学の黒川孝幸教授は基礎スキー部同期。地球惑星科学科と大学院では北海道横断の巡検やロシア・カムチャツカ半島最南端のパラムシル島での金鉱床の調査などを行う。2008年よりMicrosoft、2019年よりGoogleにて一貫してクラウド・テクノロジーの普及に務める。その間単身赴任を続けていたがコロナ禍を機に帰札。現在は妻、二人の息子、柴犬一匹と北海道を満喫しながらリモートワーク中。趣味は愛犬の散歩、ゴルフ。