理学部に入学、移行そして進級された皆さん、この度は誠におめでとうございます。理学部教職員を代表して、心よりお祝いを申し上げます。理学部は北海道大学が4番目に設置した学部です。1930年に創立され、94年にわたり北の大地で基礎科学を学ぶ教育と文化を育んできました。皆さんも今日からこの伝統ある理学部の一員となります。教職員一同、皆さんを心から歓迎いたします。
昨年5月より新型コロナウイルス感染症は5類に移行され、本来の大学生活が戻ってきました。一方で、年始には能登半島地震が発生し、予期せぬ被害に遭われた方、心労を抱えた方もいるでしょう。自然も社会も先の変化を予測することが難しい時代になっています。どうか、冷静に対処し、粛々と修学に注力して欲しいと願います。
さて、本学は2026年の創基150周年に向け、「世界の課題解決に貢献する北海道大学」をスローガンに掲げています。解決すべき課題は、国連がまとめたSustainable Development Goals(SDGs)に代表されるものであり、理学の研究者や学生は、個人の知的好奇心を基盤としつつ、社会的課題にも応える責務を持っています。特に科学技術の進展が著しい現代社会において、理学は信頼できる科学的事実の提供や新技術の創出、そして解決策を発案する人材の育成を通じてSDGsに貢献しています。皆さんが身につける理学の素養は、将来社会に出て真理探究と課題解決のバランス感覚を持った社会人として活躍する基盤となるでしょう。
理学と社会の繋がりについてもう一つ付け加えます。私たちは、サイエンスの成果が善にも悪にもつながり得る多くの例を知っています。世界には紛争が絶えず、今もウクライナ、パレスチナ、ほか世界各地で悲惨な事態が続いています。そこでは極めて残念なことですが、先端科学の知見が軍事技術に転用されています。人類の智慧は不完全であり、科学者は自らの発見がどのようなテクノロジーを生み出し得るかについても熟慮して行動する責任があることを忘れてはなりません。
さらに昨今、人工知能(AI)が驚異的な進化を遂げ、研究分野でも新しいツールとして活用されています。中でも生成AIは、私たちも手軽に利用でき大きな注目を集めています。皆さんには、理学部で学ぶ知識と創造性を活かし、生成AIのような新しい技術と正しく向き合い成長していただきたいと願っています。先述した世界各地の争いでも兵士たちは機関銃ではなくAIを武器に戦っています。このような現実を受け止め、考え、サイエンスは人類の福祉に貢献するという使命を忘れないでください。
さあ、いよいよ専門分野の学びが始まります。先人の築いた知を吸収し学びつつも、自らの疑問や好奇心、発想を大切に、世界平和に貢献する新しい知の創造に果敢に挑戦されることを願っています。
令和6年4月1日 北海道大学理学部長 網塚 浩