夢はホヤ図鑑を作ること

長谷川尚弘さん(北海道大学大学院理学院自然史科学専攻 博士課程3年、2024年3月修了予定)

長谷川尚弘さん(生物科学科/生物学出身、現在は理学院在籍)は、2024年2月1日にプレスリリース「ついにガイコツパンダホヤの正体が判明!~SNSによる情報拡散から新種の発見へ~」を発表しました。1月に博士課程の学位審査を終え、博士号を取得予定の長谷川さんに話を聞きました。

今回プレスリリースしたガイコツパンダホヤについて教えてください

SNSやメディアで話題になりダイバーたちから「ガイコツパンダホヤ」と呼ばれていたホヤを、沖縄県久米島で採取し、解剖と系統解析を行いました。その結果、ツツボヤ科ツツボヤ属の新種であることを発見し、Clavelina ossipandae(クラベリナ オシパンダエ/ツツボヤ・骨の・パンダの)と命名しました。
ガイコツパンダホヤは身体が透明で、血管が白く骸骨の様に見え、黒い箇所があるため、見た目がジャイアントパンダのようです。わずか2cmほどの小さなホヤで、現在は沖縄県久米島のダイビングスポット「トンバラ」でのみ確認されています。

ガイコツパンダホヤについて説明する長谷川さん
どのように新種と同定したのですか?

ツツボヤ科ツツボヤ属はガイコツパンダホヤを含めて世界で45種確認されています。ガイコツパンダホヤと、その他の44種の形態を比較し、これまで知られているどれとも異なる特徴を持つことが分かりました。また遺伝子解析も行い、ツツボヤ属に属することも確認しました。

なぜこのような色合いなのでしょうか

ツツボヤのグループは今回の白黒の他にも、青や黄色、ピンクなど色合いや模様が多様で、ダイビングをする人には大変魅力的な生き物です。しかし色の意味は全く分かっていません。一見するととても目立ちますよね。でもそれは人間の感覚です。例えば魚はどのように認識しているのか、なぜこのホヤたちはカラフルなのか、その理由を調べるのは難しいですが興味があります。

ガイコツパンダホヤ(提供:長谷川尚弘さん)
ホヤに興味をもったのは?

北海道出身の両親はホヤが好きで、よくホヤが食卓に出ていたので、幼稚園児ぐらいのときにはおもしろい形をしていて不思議な生き物だなと思っていました。
北海道大学理学部生物科学科3年時に、現在の指導教員 柁原宏教授の授業で、尾索動物を調べる課題がありました。そこで昔から興味を持っていたホヤを選んだのが、ホヤ研究に進んだきっかけです。
私はじっとしていられない性格で、フィールドワークが好きなので、4年生で柁原教授の研究室に入った後、さっそくダイビングライセンスを取得しました。そこから自分で海に潜ってホヤを採取し研究する生活が始まりました。その後、修士課程、博士課程とホヤ研究を続けています。

採取したホヤの標本の一部
ホヤの何を主に研究していますか?

進化を調べています。ホヤには単体性と群体性があります。群体性のホヤは「個虫」という無性生殖によって作られた小さなクローンが集まっています。私が注目しているのは、個虫がなぜ小さいのかです。遺伝子解析から、まず単体性から群体性に進化したことを確かめました。さらに進化の過程で群体を成す個虫がだんだん小さくなっていったと考えています。
個虫が小さい方が生存戦略として有利だと仮説を立て、数理モデルを作り研究を進めています。

ホヤの中でもカタユウレイボヤはモデル生物といってゲノム配列が解読され、遺伝学、神経系、内分泌系、発生学などが研究されています。一方で、私のようにホヤ自体の分類学や進化を研究している人は、世界にも数人しかいません。ホヤを抗がん剤へ応用しようなどと考えている人はいるようです。その研究にもまずはホヤの基礎研究が重要と考えています。

「この大きなのも、群体性のホヤです」
ホヤの魅力は?

動かない動物、動けないのではなく、敢えて動かないことを選んだところにとても惹かれています。生物の進化を考えると、ホヤは実は魚に結構近くて、脊椎動物に最も近い無脊椎動物と言われています。まだ分からないことは多くあり、もっともっとホヤのことを知りたいです。夢はホヤの図鑑を作ることです。いろいろな種類のホヤを比較し研究を進める中で、調べていくと実は新種だったということがあるのも魅力の一つです。

「ホヤは魚に結構近いんですよ」
クラウドファンディングで研究支援を受けたそうですね

実は奨学金を得てブラジルサンパウロ大学の博士課程への進学を予定していました。しかしコロナパンデミックのために海外渡航に制限がかかり留学を断念し、北大の博士課程で研究を続けることにしました。ちょうど、その頃、北大理学部の同期の友人が学術系クラウドファンディングサイト「アカデミスト」を運営している会社のインターンシップに行っており、私にもクラウドファンディングにチャレンジしてみないかと声をかけてくれました。自分でホヤを採取して研究するために、みなさまのご支援をいただけたら非常に助かると思いチャレンジしました。おかげで多くの方にご支援いただき、実際に沖縄久米島への旅費や滞在費などに使わせていただきました。またたくさんの応援メッセージは大変励みになりました。
一方で、研究成果を出し、ご支援いただいたみなさまへフィードバックしなければ、というプレッシャーも感じました。この先の研究生活でも状況は同じと思いますが、それを学生時代に経験することができました。この貴重な体験をこれからの研究生活に生かしたいと思います。

北大理学部を目指す方へメッセージを

好きなことはぜひそのまま続けてほしいです。それが何かの役に立つかなどは二の次でも良いと思います。大変なことももちろんありましたが、私は大好きなホヤ研究を続けられてとても楽しいです。

みなさんへお願い

もし珍しいホヤ、おもしろいホヤを見つけた場合は、私までぜひ連絡をください。もしかしたら新種かもしれません。一緒にホヤ研究をしましょう。

(連絡先) 長谷川 尚弘(はせがわ なおひろ)
Xアカウント:@hoyahoy11532152
メールアドレス:hoya.hasegawa.ronbun[at]gmail.com ([at]を@マークに)

長谷川尚弘
1995年北海道室蘭市生まれ。北海道大学大学院理学院自然史科学専攻 博士後期課程3年。JST次世代研究者挑戦的研究プログラム(北海道大学)フェロー。自分で捌いたホヤ(マボヤ、アカボヤ)を肴にお酒を飲むのが好き。自作の水槽でホヤを飼育している。ホヤ以外では、高校まで吹奏楽をしており音楽好きなので、いつかイタリアでオペラ鑑賞をしたい。

(所属・学年は2024年2月取材当時)
(文責:理学研究院 広報企画推進室 松本ちひろ)

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