【前編】博士のスゝメ 〜永井理学部長と大学院生による座談会〜

理学部を卒業し、現在博士後期課程で研究に取り組む6人の大学院生が、永井隆哉理学部長と率直に 語り合いました。

北海道大学理学部では、卒業生の約85%が修士課程へ進学し、そのうち約25%が博士後期課程へ進学します。今回は、博士後期課程(以下、博士課程)に在籍する大学院生と、永井隆哉理学部長との座談会をお届けします。博士課程への進学を決めた理由、経済的支援の実情、将来のキャリア、女性研究者としてのライフプランまで、現役大学院生がそれぞれの経験や思いを率直に語りました。

永井隆哉 第35代 理学部長
理学研究院 地球惑星科学部門 教授
専門は高圧高温下の鉱物の結晶化学 岐阜県可児市出身、岐阜県立加茂高等学校卒業


「もう少し続けたい」から始まった博士課程

永井 今日はみなさんとお話しできることを楽しみにしてきました。最初に、博士課程に進学した理由を聞かせてください。

首藤 数学科出身です。学部生の頃は、正直、修士課程で研究は終わるつもりでした。でも研究を始めたら想像以上におもしろくて……気づいたら「もう少し続けたい」と強く思っていました。はっきりと博士課程進学を決めたのは修士課程1年の夏です。

内藤 物理分野で新物質や特異な物性を探索しています。研究は芽が出るのに時間がかかります。修士課程の途中で「ここまで積み上げたので、あと少しでもっと興味深いことが見えてきそうだ。ここで終わると中途半端だ」と感じ、博士課程に進学しました。修士修了で就職するか、博士課程に進学するか、迷わなかったと言えば嘘になりますが、今は進学してよかったと思っています。

深澤 化学科出身です。研究職に就きたいという気持ちは最初からあり、そのためには博士号を取得した方がいいと考えました。経済面の不安もありましたが、学振(日本学術振興会特別研究員制度)や給付型の支援について知り、決断できました。(*1)

教わる側から、問いを立てる側へ

永井  修士課程と博士課程で、一番違うと感じるところや、研究で困難に思うことは何ですか。

五藤 修士課程はフランスとドイツで「鳥のさえずり」の研究をしました。研究テーマは提示してもらったものから選びました。それが博士課程では、自分でテーマを設定し、方針も設計する必要があります。そこが最も大きな違いだと感じています。

河村 学部4年生から細胞内のタンパク質の生成機構や機能に関する研究を続けています。学年を経るごとに、研究の進め方も、論文も、発表も責任を担う割合が大きくなってきています。

保苅 学年が上がるにつれ、相談できる先輩が減ることです。困った時に気軽に相談できる相手が少なくなり、自分で考えなければなりません。結果が出ない時は不安に感じますが、それも含めて研究だと思っています。

五藤 とても共感します。自分が上の学年になり、急に後輩に教える立場になりました。

永井 博士課程では、それまでの「誰かに教わる」から、「自分で考え判断する」段階に変わります。その過程で迷いや不安を感じることがあるでしょう。むしろ研究者としての成長の過程でもあり、自然な通過点だと思います。

保苅 地球惑星科学では、限られた観測データから地球の内部など、直接見えない現象を推測することが多く、研究を続けていると、どこまで議論してよいのか難しさを感じます。

永井 特に地球惑星科学のような分野では、観測できる情報が限られているため、解釈に幅が生じることも少なくありません。だからこそ、あまりゴールを決めすぎず、その時々でおもしろいと思った問いを深めていくことが大切なのだと思います。学びとは、自分なりの問いを育てていくことでもあります。関心を大切に、試行錯誤を続ける姿勢を大事にしてほしいと思います。

世界でまだ誰も知らないことに向き合う

永井 研究をしていると、「世界で今、自分だけが知っている」と感じる瞬間や、やっていてよかったと思える瞬間があると思います。

保苅 火山に登り、噴気が上がっている光景を見ると、気持ちが高ぶります。火山研究をしているからこそできる経験です。また、フィールドワークで観測した現象と、研究室に戻って解析した結果が一致し 「これだ!」と思う瞬間は嬉しいですね。同時に、良い結果が出ると「本当に合っているか?」と不安になることもあります。

首藤 自分の数学研究はコツコツとパソコンに向かって計算することが多いのですが、一日中画面に向かった後で良い結果が出ると、「おぉ!」と静かに喜びを感じます。同時に私もやはり不安になるので、複数回証明を繰り返して、確信に近づいていく感じです。

永井 予想通りの結果の時ほど不安になるというのは、研究者に共通する感覚です。だからこそ、慎重に確かめる。その積み重ねが、研究をより確かなものにしていきます。

河村 神経系の病気に関わる研究をしていることもあり、ニュースで見かける病気の仕組みが少し理解できたとき、社会とのつながりを実感します。治療法がまだないことにもどかしさも感じますが、それが研究のモチベーションにもなります。

五藤 動物の行動を研究していると、〝予想外〞が起こることがよくあります。「えっ?」と思うようなことに出会うとむしろワクワク楽しくなります。また、教科書や論文で読んでいた研究者、自分の中ではすごいと思っている研究者と対等に議論してもらえるようになれたことは、とても嬉しいです。

内藤 研究費申請などでは「社会貢献」が求められることも多いですが、「おもしろい物理現象を探究したい」という純粋な興味を大切にしていいのか、迷うこともあります。

永井 理学の基礎研究は最初から社会貢献を強く意識しなくてもよいと私は思っています。「知りたい」「ワクワクする」という純粋な好奇心から始まった研究が、後に社会を支える技術につながることもあります。まずは、自分が本当におもしろいと思える問いを大切にしてほしいです。

研究を続けるための経済的支援

永井 博士課程になると、さまざまな経済的支援を受けられる機会が増えます。進学を決めるときにその点はどう影響しましたか。

河村 実はあまり経済面を考えずに博士課程に進学しました。今は北海道大学EXEX博士人材フェローシップや日本学生支援機構(JASSO)奨学金など(*1)で助かっていますが、今思うと怖い物知らずでした。「もし不採択だったら」と当時もう少し考えておくべきだったと思っていますが、進学に影響はなかったと思います。

五藤 私も経済面を考えずに、とにかく研究がしたい一心で進学しました。学振に選ばれ支援を受けていますが、それが決め手ではありません。やはり研究に惹かれるから、お金のことは何とかしていこうと思っていました。

深澤 私も学振に選ばれ、さまざまな制度が充実していることに感謝はしていますが、「もう少しあれば……」というのも正直な思いです。就職した同級生の話を聞くと、やはり違いを感じます。

内藤 これから海外経験も積みたいと思ってチャンスを調べているところですが、一番のネックはやはり金銭的なことです。簡単には行けない現実があります。

河村 たしかに。先日アメリカに学会で一週間ほど行きました。もちろん渡航費の援助はありましたが、費用はとてもかかりました。

永井 国も博士人材の重要性を重視していて、経済的支援に力を入れています。支援の量と質をさらに高めていくことが今後の目標ですが、以前に比べて博士課程進学を支える環境は確実に整ってきています。海外渡航に関しては、EXEX博士人材フェローシップの海外渡航費支援や、理学部同窓会による補助や各種奨学金などありますので、情報を見逃さず、ぜひ有効に活用してほしいと思います。

(後編につづく)

*1 博士課程学生への支援制度についての詳細は、「理学部での学びを、次のステージへ ─ 大学院博士課程進学のすゝめ」をご覧下さい。

※座談会は2026年6月に行い、本コンテンツは理学部広報誌「彩」第14号(2026年2月発行)に掲載された特集です。また、学年は広報誌掲載当時のものです。

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