先輩に聞く!100周年事業 第7回 理学部創立100周年カウントダウン講演会「数学は仕事になるのか:量子コンピュータ業務を通して考えたこと」

今井 春奈さん(2017年数学科卒業、現在NEC所属)

第7回 理学部創立100周年カウントダウン講演会が、2026年9月28日(月)に開催されました。理学部は2030年に創立100周年を迎えます。輝かしい100周年に向けて同窓生をはじめ、理学部にゆかりのあるみなさまにバトンリレーのように語っていただく企画です。

今回の話題提供者は、今井 春奈さん(理学部数学科卒業/現在、NEC所属(講演当時はNECソリューションイノベータ株式会社))です。「数学は仕事になるのか:量子コンピュータ業務を通して考えたこと」と題して講演していただきました。

この日は、講演会に続いて、ホームカミングデー理学部企画として、12名の同窓生のキャリアトークや22のブース展示が開催され、約100名の同窓生、学生、教職員が集まり有意義な一日となりました。
レポートはこちら:北海道大学理学部ホームカミングデー2026「理学で広がる未来。人生を彩る多様なキャリア発見交流会」を開催しました

「数学は仕事になるのか:量子コンピュータ業務を通して考えたこと」

講演する今井さん
学生時代は代数学を

大学時代、私は数学科で学び、大学院では田邊 顕一朗先生の元で頂点作用素代数の研究に取り組んでいました。実は、現在の専門である量子計算とは直接関係のない分野です。ゼミでは新しい考え方を学ぶことができ非常に楽しく過ごしました。また、北大祭理学祭の数学展の展長をやったことも良い思い出です。

悩みながらの就職活動とその後

就職活動では将来の進路に悩みながら、さまざまな企業説明会や数学科向けの就職イベントに参加しました。当時は「数学そのものを使う仕事」にこだわっていたわけではありませんでしたが、数学を通して身につけた考え方や議論する力を活かせる仕事には関心がありました。その中でIT分野なら数学に近い仕事ができるのではないかと考え、現在の会社に入社しました。
ところが入社後、大学や大学院で続けてきた数学が、そこで終わってしまうような感覚を覚えたのです。「このままでは数学をする機会がなくなるのではないか?」。そんな焦りから、数学を活かせる量子コンピューターやAIに関わる部署を、希望するようになりました。すべての配属面談で「量子コンピューターに携わりたい」と伝えた結果、幸運にも現在の業務に関わることができました。

会場の様子
量子コンピュータの仕事

量子コンピューティングは大きく二つの方式に分かれます。一つは「アニーリング方式」といって組合せ最適化問題に特化した手法で、近い未来の量子コンピュータです。巡回セールスマン問題や勤務シフト問題のように、多くの条件の中から最も良い解を見つける問題に、疑似量子アニーリングを用いて取り組んでいます。組合せ最適化は日常生活の様々な場面にあります。お客様の課題を数理モデル(イジングモデル)として整理し、実際の課題解決につなげていく仕事に主に関わっています。
もう一つは、「量子ゲート方式」と呼ばれる未来の量子コンピュータです。組合せ最適化だけでなく、様々なアルゴリズムを実行できるのがその特徴です。私は、量子アルゴリズムの調査、理解や実装に取り組んでいることに加えて、技術的な改善にも挑戦しています。

数学は本当に仕事に活かせるのか

私自身の答えは「活かすチャンスはある」です。量子アニーリングの分野では、高校数学を活かせますし、量子ゲート方式の技術研究においては、大学数学の線形代数が重要な役割を果たしています。場合によっては群論や関数解析など幅広い知識も役立ちます。

一方で、仕事は数学だけでは成り立ちません。プログラミング、検証作業、資料作成、会議参加、チームマネジメントなど、多くの業務が必要です。数学の知識だけでなく、さまざまな能力が求められます。また、数学的・学術的に面白いテーマを見つけるだけでなく、それを社会や産業にどう活かせるのかを考えることが重要だと感じています。社会のニーズを前提に、自社が取り組む意義まで考えることが、企業で働く上で大切なポイントです。

これからやりたいこと

現在は、AIや定理証明支援系を活用して量子計算アルゴリズムの研究開発を支援できないかというテーマに関心を持ち、個人的な勉強や開発を続けています。ビジネスとしてどのような価値につなげられるか、現在も模索を続けているところです。

質疑応答

Q:AI時代における人材の役割について
A:AIは今後ますます活用されていく一方で、それを使いこなし、何を実現したいのかを考えるのは人間の役割だと考えています。特に理学部で培われる「考える力」は、AIが普及する時代でも大切な価値を持ち続けるのではないかと思っています。

Q:数学的に最適解でも、社会では必ずしも望ましい結果にならないときの、エンジニアの判断は?
A:数値でこれが最適だと顧客に対して提示しても、「こちらの方が見た目がよい」などと別案を希望されることもあり苦しいときがあるのは確かです。そのような時は、顧客第一で話を聞くことにしています。

会場の様子

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※肩書、所属は、講演会当時のものです。

撮影:川本思心准教授(物理学部門)
撮影・文責:松本ちひろ(広報企画推進室)

 

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