野生生物カメラマン兼宇宙物理学者

岡本 崇 教授(物理学科/理論宇宙物理学研究室)

#metime(ハッシュタグ ミータイム)〜研究者の自分時間〜

研究者って研究ばかりしているのでしょうか。北海道大学理学部各学科の研究者に、自分らしく過ごしている時間や、これまで力を注いできたことについて話を聞きました。「趣味」という言葉では表せないほど、どの研究者もそれぞれに真剣に向き合っており、本気度が見えてきます。理学部の魅力的で多様なmetimeをお楽しみ下さい。

※ Me time:time devoted to doing what one wants, typically on one’s own, as opposed to working or doing things for others, considered as important in reducing stress or restoring energy. 他の人のためではなく、自分がやりたいこと、自分自身で行うことに充てられる時間。ストレスを軽減したりエネルギーを回復したりするのに重要であると考えられている。(オックスフォード英語辞典より)

岡本 崇 教授(物理学科/理論宇宙物理学研究室)
1973年生まれ。滋賀県大津市育ち。北大物理学科卒業。数値シミュレーションを用いて、銀河や超大質量ブラックホール等の構造形成を研究している。健康のためにバランスボールに座りながらスパコンを操作する。モモンガのピアスがお気に入り。

好きなものは何ですか?

小さな頃から生き物が好きでした。幼少期はエルサルバドルで過ごし、庭に2羽のウサギ(名前はペピートとチッチータ)がいたり、小学校で飼育係をしたり、生き物の世話は好きでした。でも血を見るのが苦手で、獣医や生物分野は目指しませんでした。
星にも関心があり、最初は天体望遠鏡を覗いて土星や木星を見たりして面白がっていましたが、普通の星はただの点にしか見えないのが残念でした。北大1年生の時の兼古昇先生の授業で、宇宙には銀河や銀河団、大規模構造などの階層構造があることを知り、宇宙に興味を持ちました。

その後の生き物との関わりは?

野生生物の写真撮影が趣味です。登山中に出会う動物を見るのが好きで、そのうちあの動物は何?と調べたくなって撮り始めたのがきっかけです。それからどっぷりハマって、徐々にカメラとレンズが高額になっていきました(笑)。愛用のカメラは、オリンパスのOM―1。海の生き物も好きで、ダイビング用具や水中カメラも揃えました。

大雪山系で撮影したエゾナキウサギ。冬に向けて貯食中。
北海道での撮影は?

野鳥や動物との距離が近いのが魅力です。キツネの巣を見つけた時は、迷彩柄のテントに隠れてシャッターチャンスを狙ったこともあります。偶然授乳の様子に出くわしたり、仔ギツネを正面から撮影できたこともありました。ただし、野生生物は人慣れしてはいけないので、近づきすぎないように気を付けています。
エゾナキウサギには、十勝岳や然別方面に会いに行きます。知床ではヒグマとも遭遇しました。札幌市内でモモンガの巣を見つけたときは、いてもたってもいられず仕事を早めに切り上げて、日暮れを狙って撮りに行きました。最近歩くスキーを買ったので、冬の間に足跡から巣穴を探しておき、春を待って撮影するのが楽しみです。
北大でも珍しい鳥を見かけることがあり、自然豊かな環境は有り難いことです。

研究に効果的だったことは?

趣味と研究との関わりはないです(きっぱり)。研究に行き詰まっているときは、写真撮影に行っても楽しめないので行きません。
学会発表の資料には、自分で撮影した野生生物の写真を載せています。「髭の一本にも文字や図を重ねない」というマイルールを課して、準備に時間をかけています。話に集中できないと言われることもありますが、評判は概ね良いと思います。 特に国際学会のバンケットでは話のきっかけになっています。参加者は専門の宇宙の議論をしているのに、僕のまわりは動物の話で盛り上がることも多いです(笑)。
もちろん宇宙の研究は面白いです。 でも本音はもっと生き物を探しに行く時間が欲しいですね。年々自然が荒れていくのを感じますし、最近は自然保護活動にも興味を持っています。

若いうちにしてほしいことは?

異なる価値観や文化圏の中でいろいろな経験をしてほしいです。僕はイギリスのダラム大学での研究生活がとてもよい経験になりました。研究には国境がありません。博士号と論文があれば世界中どこでも通用します。どこででも生きていけるし、どこででも好きなことができるのは重要だと思います。

 

理学部広報誌「彩」第10号(2024年2月発行)掲載。>理学部 広報・刊行物

※肩書、所属は、広報誌発行当時のものです。

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