3 理学部創立100周年カウントダウン講演会「研究と陸上競技を支えてくれた北大理学」

高橋 佑輔さん (理学部化学科卒業/現在、北海道大学大学院 総合化学院 修士課程2年/分析化学研究室所属)

第3回 理学部創立100周年カウントダウン講演会が、2023年9月30日(土)にオンラインで開催されました。理学部は2030年に創立100周年を迎えます。輝かしい周年事業に向けて、同窓生をはじめ、お世話になったみなさまにバトンリレーのように、理学の未来について語っていただく企画です。

ゲストは高橋 佑輔さん(理学部化学科卒業/現在、北海道大学大学院 総合化学院 修士課程2年/分析化学研究室所属)です。「研究と陸上競技を支えてくれた北大理学」と題してお話しいただきました。

網塚先生、理学部同窓生のみなさま、このような機会を用意してくださりありがとうございます。

僕は、陸上競技のランナーとして、オリンピックを目指して励んでいますが、同時に大学院総合化学院修士課程2年生であり、研究活動にも力を入れています。本日は、「研究と陸上競技を支えてくれた北大理学」と題して話します。よろしくお願いします。

北海道、北海道大学の印象

初めての北海道は、中学2年生の時の家族旅行でした。実家の兵庫県神戸市に比べて、緑が多く雄大な景色が印象的でした。北国の冬にも惹かれて北大を意識した記憶があります。

大学受験時に前期入試で受けた京都大学は不合格でしたが、後期入試で北大に合格しました。この地で学部・大学院含めて6年間を過ごすのはかなり楽しそうだと思いました。

学部生時代の思い出(1〜3年生)

理学部に入学し、一年目は綺麗なキャンパスと、冷涼で過ごしやすい気候にとても感動しましたが、憧れていた冬にはとても苦労しました。関西では雪が降らないので、冬に外でランニングできますが、北海道の根雪は春まで続きます。雪の上を走るのが非常に難しく、1、 2年生の時は滑って怪我をしたこともあります。怪我をして走れない時期は、開き直って友だちとスキーや旅行に行き、北海道でしか体験できない冬を楽しみました。3年生の頃、ようやく北海道の冬に慣れてきて、陸上競技では日本選手権で5位に入賞、全日本インカレの1500mで2位を獲ることができました。とても嬉しかったです。

4年生 最も印象深い一年

学部時代では、4年生が最も思い出に残っています。陸上競技では、日本選手権で4位に入賞し、また出雲駅伝の出場をチームで決めました。学業面では、研究室に配属され、学生生活はこれまでと一気に変わりました。新しい生活が始まったというワクワクした期待と同時に不安もありました。
学業の話が出ましたので、現在の研究内容をお話しします。

現在の研究

プラズモン/WSe2/MoS2ヘテロナノ構造の発光特性を研究しています。
WSe2とMoS2は通称TMDCと呼ばれていて、超薄型の半導体として発光デバイスや光電変換デバイスへの応用が期待されています。このTMDCを縦に重ねたTMDCヘテロ構造においてはType2と呼ばれるバンドアライメントを取り、電荷分離効率が非常に高いことが注目されています。一方で、電荷再結合速度が遅いため、発光量子収率が低いという欠点があります。
そこで、TMDCヘテロ構造の上にプラズモンナノ構造を作成して、このプラズモンによる発光増強によって発光特性の変化を解明することを目的とした研究を行っています。

ヘテロ構造の発光特性には回転依存性があります。TMDCは、三角形(三回対称性)に成長するので、重ねる角度が15度、60度のそれぞれの場合の特性を可視化し検討しました。その結果60度の構造において研究を進めることにしました。

続いて、電子と正孔の再結合の速度が遅いことによって量子収率が下がってしまう問題点を確かめるために、電荷分離寿命を測定しました。その結果、WSe2よりもMoS2/WSe2ヘテロ構造の方が電荷分離の寿命が非常に長いことが分かりました。このことから電荷分離に基づいて再結合のプロセスが長寿命化されることが観察されました。

最後に発光測定を行った結果、ヘテロ構造の上に金ナノ構造があるものの方が、金ナノ構造がないものに比べて約10倍の発光増強が確認できました。再結合速度がプラズモンで加速されることによって量子収率が改善され、発光強度が増大したためと考えています。

今後このような研究を通して、発光デバイスや、光電変換デバイス、太陽電池の発展に寄与できたらいいと考えています。

陸上競技と勉学の両立のために大切にした4つのこと

陸上競技と勉学を両立しながら学生生活を送る上で、時間管理に最も気をつけました。陸上競技で一番時間を使う練習は、なんといっても「走る」ことです。走る時間をコントロールして、かつ授業時間や勉強時間を確保しなければなりません。その中で実験レポートを書く時間は個人の裁量に委ねられていますので、ここを工夫しました。
例えば、化学科の学生実験は16時半頃に終わるので、そこから帰宅後すぐ走って、その後夕食、入浴を済ませレポートに取りかかります。友達と会う日は、それまでに頑張ってレポートを終わらせる努力もしました。その日の実験はその日のうちにレポートを終わらせることを心がけていました。

2つ目に気をつけたことは、日常を管理するという点です。
陸上も勉学も、日課を具体化することによって、何をすべきかの優先順位をつけられます。陸上と勉強を敢えてごっちゃにし、例えば交互に予定を入れることで、できるだけ効率よく処理できると思っています。優先度は陸上も勉学も、様々なコンディションで都度変わるものです。

3つ目は、両方のモチベーションです。
陸上に関しては、高校のインターハイで優勝したので、もう一回全国で勝ちたい気持ちがあったのと、国際大会に出たい希望があったので、それをモチベーションに頑張りました。勉強に関しては、陸上で好成績を出すと、部活ばかりやっている印象を持たれるのが嫌なので、勉強でも良い結果を出したい気持ちがモチベーションになっています。自分ができる努力はしてきたと思っています。

最後に周りの人の協力は最も重要なことです。指導教員の上野貢生先生や研究室の同期生、学部・学科の先生方の理解があってこそ、陸上と研究活動を続けられていると思います。もちろん、今自分が何をしたいか、人に説得力をもって説明するのも力だと思いますが、僕の考えに賛同して、協力してくださったことに心から感謝しています。

2023年7月バンコク2023アジア陸上競技選手権大会 1500mを走る高橋さん(右)
中距離走の魅力

他の陸上トラック競技と比べて、中距離走は順位変動が激しいものです。例えばスローペースでレースが運んでいくと、ラスト1周にどんどん抜かされ、ラスト200mはまるで短距離走のようなレースになったりします。ハイペースなレースでも順位変動はあり、自分でレースを最初から最後まで引っ張るように走ると、後半まで維持するのはかなり苦しいですし、速いスピードで走っているのに、ラストに後ろからどんどん伸びてくる選手もいたりします。このダイナミックさはやはりハイペースだとすごく感じることができるので、中距離走の魅力の一つだと思っています。
それぞれが自分の得意なレース展開に持っていくために、それに合った動きをするところも魅力です。僕はラスト300〜250mからのロングスパートで、できるだけ逃げ切るイメージのレース展開が一番得意です。今年の日本選手権やアジア選手権ではそれが綺麗にはまったレースができ、いい結果を得られました。一方で、自分の思い通りの展開に毎回ならないところは難しいと思っています。

未来の北大理学部生へのメッセージ

僕は研究と陸上競技を両立させたいと思いながら、大学に入学しました。僕のように複数のことをやり遂げたい人も、研究を極めたい人もいるはずです。どんな夢を持って入学しても受け入れる環境が整っている北大理学は素晴らしいと考えています。
もしこの話を聞いて北大に惹かれたならうれしいですし、ぜひ僕の後輩になってくれたなら光栄です。

これからの目標

世界レベルのレースを体感したいです。今後はオリンピックや、世界陸上に出場したい気持ちが一番大きくなると思っています。2025年の世界陸上は東京開催なので、僕が出場してみなさんに応援してもらうことを目標としたいです。
最後になりますが、2030年の理学部100周年に、何らかの形でみなさまと再会できることを楽しみにしております。北大理学部の発展を祈っております。

参加者集合写真(一部)

高橋 佑輔 氏(化学科令和4年卒業/化学新25期)
現在は、北海道大学大学院総合化学院修士課程2年 分析化学研究室所属

プロフィール:
1999年生まれ。神戸市出身。2022年理学部化学科卒業。2022年同大学院総合化学院入学。高校は兵庫県立兵庫高等学校。中学生の頃から陸上競技をはじめ、高校で一気に成長し2017年の山形インターハイでは800mで優勝。以来、中距離走を得意として多くの大会で入賞してきた。2023年7月のバンコク2023アジア陸上競技選手権大会の日本代表選手に選ばれ、銀メダルを獲得。2023年10月リガ世界ロードランニング選手権(ラトビア)1マイル走に日本代表として出場。研究活動を続けながら、2024年パリオリンピック出場を目指している。尊敬する選手はモハメド・カティル(スペイン)。走り方・競技スタイルを直感的にかっこいいと感じている。趣味は温泉、旅行、サウナ。

※所属、学年は2023年時のものです。

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