【前編】「理学の学びとその先」網塚理学部長と学生による座談会

北海道大学理学部を卒業し、現在大学院で学ぶ6 人の学生たちに、理学部を選んだ理由や理学の学び、将来への思いを語ってもらいました。

北海道大学理学部に在籍している学生は約1000名(2〜4年生の合計:令和4年5月1日の集計)。学部卒業後、その8割以上が大学院へ進学します。理学部を選び、そこで学び、さらに研究を続ける大学院生と、網塚理学部長の座談会をお届けします。理学部長への質問からは、素直な悩みや不安も見えてきます。いまを懸命に生きる彼ら彼女らの声をお聞き下さい。


網塚 浩 第34代 理学部長
理学研究院 物理学部門 凝縮系物理学分野 教授


網塚 理学部の周りに広がるエルムの森でみなさんとお話できることを楽しみにしていました。北大が誇る素晴らしい空間ですよね。はじめに理学部を選んだきっかけ、そして実際に理学部で学んだ感想を教えてください。

野田 現在の指導教員(数学科 坂井哲教授)との出会いが大きいです。水産学部に入学しましたが、学部1年時に、坂井先生の「物理現象を数学で厳密に記述する分野」に強く惹かれ、理学部数学科に転部(*1)しました。数学科はとにかく数学が好きな人の集まりです。学年も関係なく一つの問題についてディスカッションする環境がとても好きです。

加藤 大学に入る前から物理を学ぶ夢を持ち続けていたらここにたどり着きました。物理学科には天才的な人もいますが、私自身は地道に積み重ねるタイプだと思っています。その努力を同期や先生方が認めてくれるので、温かい環境で勉強できています。とても充実しています。

宮澤 中高生のときから化学が好きで、最小単位の原子って面白いなと思っていました。化学科には個性的な人が多く、すごく楽しいです。

網塚 化学科は、ノーベル賞を受賞した鈴木章先生(2010年)もベンジャミン・リスト先生(2021年)もいます。世界トップクラスの研究者が、北大に集まって研究している雰囲気を感じますか?

宮澤 各分野でトップレベルの方々が盛んにコラボレーションをしていることを感じています。また、同じ空間に世界で活躍する研究者がいるのは、とても刺激的で励みになります。

近藤 私は、徳島県の地方出身で、田んぼでヤゴやメダカをとったり、ミミズを掘り返したりする子どもでした。生き物に興味があったので、農学部か理学部に進学したいと思っていました。高校生の時に参加したオープンキャンパスで、農学部は応用研究を行い、実用化に向けて研究する人が多いけれど、理学部は自分の知的好奇心に従って、面白いと思うことを研究する人が多いと聞き、自分には理学部が向いていると確信し、今ここにいます。生物学は、個体群などのマクロな研究から、分子レベルのミクロな研究まで幅広くカバーしています。多様性生物学の研究室があるのも北大の特徴です。学部2年生から実習や授業を通して多岐に渡った研究分野を見た上で、4年生の卒業研究につなげられるのは、生物科学科/生物学専修の強みだと思います。生き物好きな人にはパラダイスです。

浦上 この美しいキャンパスに憧れがありました。学科については、どうしてもこれがしたいという強い思いはなかったので、いろいろ経験できる高分子機能学専修を選びました。

網塚 実際に進学して、どうでしたか。

浦上 生物も化学も物理も情報系も幅広く学ぶ学科です。多くの授業を経て、免疫や情報系に関心を持てたのがよかったです。

大槻 僕は、昔から漠然と宇宙に興味がありました。でもロケット、惑星探査、ブラックホールなど一体宇宙のどの分野が自分に向いているのか全く分かりませんでした。だから入学後に進路を選べる北大の総合理系に入りました。その後もやりたいことは明確にならず、物理学科と地球惑星科学科(地惑)で迷いました。決め手は履修計画の自由度の高さでした。他の学部の講義を受講するなど、いろいろな経験をしたことで、自分には手を動かす実験系が向いていると分かりました。同期には、石を見て興奮する人もいれば数式を解くのが得意な人もいます。地球の深部から、気象、宇宙まで多様性があります。

網塚 圦本尚義教授の研究室に所属しているそうですが、探査機はやぶさ2が小惑星「リュウグウ」から持ち返った石も見ましたか?

大槻 研究に直接関わっていませんが、分析は間近で見ました。小さな砂です。その辺の砂と見た目は変わりませんが……(笑)。

[全員] 宇宙の砂ですよね、すごい。ニュースでも話題になりましたよね!

近藤 途中で落としたら大変そうですね!

大槻 先生たちは神経質になっていて、分析期間は話しかけるのが恐いぐらいでした。地球の空気などで汚染されないように、外気と隔絶された装置の中で扱います。僕はいま、月の砂を研究していますが、同じように扱いには慎重になります。

課外活動による相乗効果

網塚 宮澤さんと大槻さんは学部時代の部活動で合唱をされていたそうですね。

宮澤 混声合唱と演劇をしていました。ミュージカルが好きで自分で劇団も立ち上げ、学部1、2年時はかなりアクティブに活動していました。合唱と演劇の両方をすることで、それぞれの経験を生かす力が身につきました。様々な人とのつながりもでき良かったです。

網塚 研究活動には、ポジティブに働きましたか?

宮澤 私は一度に複数の活動をすることが好きです。そのほうが何事もはかどる性格なのかもしれません。忙しいのはプラスに働きました。

大槻 僕は北大の男声合唱団に所属し、北大祭や入学式、イチョウ並木の金葉祭などで歌っていました。練習は週3回で勉強との両立も無理なくできました。

浦上 発声練習など、体力はいりますか?

大槻 はい。意外と体育会系です。いまも一般の合唱団で、週1〜2回歌っています。大声で歌うことはストレス発散になりとても良いです。もう生活の一部になっています。

網塚 研究の世界でも、発表やプレゼンをするとき、お腹から大きな声が出せるようになりそうですね。趣味やスポーツは心を豊かにしてくれます。専門分野と全く異なる分野での活動は大事なことだと思います。

留学体験

網塚 しばらくコロナ禍で海外渡航が制限されていましたが、少しずつ緩和されてきました。みなさんの留学体験や希望について教えてください。

野田 新渡戸カレッジ(*2)のプログラムで、カナダのブリティッシュコロンビア大学に短期留学しました。一流の研究者に会って、大きな刺激を受けました。また自分の英語力の不足を実感したことは収穫でした。英語の勉強を重ねて、将来は海外で研究をしたいとも考えています。

近藤 研究室の留学生をサポートしていますが、英会話に苦労しています。一方で留学生は日本語の上達がとても早いです。日本語に囲まれる環境も役立っているのだと思います。私は大学院のALP(*3)というプログラムに採用されたので、その支援制度を利用して、ぜひ留学したいと考えています。

網塚 私も若い頃、オランダのアムステルダムで研究したことがあります。日本とは全く異なる文化圏に飛び込むことで国際感覚が養われます。同時に、理学という共通言語を通して一つの研究を進める経験もできます。友人が世界中にでき、その人たちがいまの自分を助けてくれることもありますね。若い方には、ぜひ留学など異文化圏での経験を増やしてもらいたいです。

卒業研究を経験して

網塚 卒業研究はどうでしたか?

浦上 3年生までの座学と4年生からの研究の性質が違い過ぎて、はじめは戸惑いました。でも研究は自分から積極的に手を動かして試行錯誤するので、関連分野にも興味が湧いてきて、やればやるほど楽しくなりました。

加藤 4年生で研究室に配属されてすぐにコロナ禍で約2ヵ月大学に来られず、夏頃からようやく卒業研究を始めました。短い期間で身につける知識で卒業論文を書くことはとても大変な作業でした。何回も先生と議論を重ね、先輩たちの熱心な指導を受けて、必死に書き上げた記憶があります。

網塚 大変ですよね。研究室に入っていきなり研究の最前線に置かれますから。よく勉強しましたね。

加藤 大変でしたが、あの時に必死に実験したからこそ分かる楽しさや達成感があり、それがいまにつながっていると思います。

後編に続く

*1 転部:詳細はウェブサイトをご覧下さい。
 https://www.hokudai.ac.jp/admission/faculty/transfer/
 https://www2.sci.hokudai.ac.jp/entrance-examination
*2 新渡戸カレッジ:北海道大学12学部での教育にプラスして、グローバル社会で活躍するために必要なスキルとマインドを身につける学部横断的教育カリキュラム。
*3 ALP(北海道大学物質科学フロンティアを開拓するAmbitious リーダー育成プログラム)

※本コンテンツは理学部広報誌「彩」第9号(2023年2月発行)に掲載された特集です。また、学年は広報誌掲載当時のものです。

 

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