理学部に入学、移行そして進級された皆さん、この度は誠におめでとうございます。理学部教職員を代表して、心よりお祝いを申し上げます。理学部は北海道大学4番目の学部として1930年に創立され、93年にわたり北の大地に基礎科学の学びの文化を育んできました。皆さんも今日からこの伝統ある理学部の一員となります。教職員一同、皆さんを心から歓迎いたします。
この3年間は新型コロナウイルス感染症の拡大のために、皆さんは大変な苦労をしたと思います。世界中が遭遇する事態でしたが、その中で本当によく頑張りました。幸い新年度は対面授業を基本にスタートできることとなりました。しかし、今後も急遽オンラインに切り替えるなどの対応が生じるかもしれません。自然も社会も先の変化を予測することが難しい時代になってきました。どうか、これまでの経験を活かして冷静に対処し、粛々と修学に注力して欲しいと願います。
さて、本学は2026年の創基150周年に向けた近未来戦略として「世界の課題解決に貢献する北海道大学」をスローガンに掲げています。解決すべき課題は、例えば国連によりSustainable Development Goals (SDGs)としてまとめられており、皆さんもよくご存知と思います。では、理学の研究者やこれから理学を本格的に学ぶ皆さんは、このテーマにどう向き合えばよいのでしょうか。サイエンスは、本来個人の知的好奇心に基づくものであり、社会的課題の解決を第一義的な目標に掲げるものではありません。とはいうものの科学者も社会の一員であり、社会からの期待に応える責務があります。特にサイエンスに裏付けられた技術(=テクノロジー)に囲まれた現代社会においては、科学者に対する社会からの期待はとても大きなものとなっています。
SDGsに向けて理学が貢献できることは少なくとも三つあります。第一に、社会的課題の解決策を考察する上で欠かせない信頼に足る科学的事実を提供すること、第二に、解決に必要な新たなテクノロジーの創出につながる原理を提供すること、そして第三に、解決策を発案できる人材を育み社会に送り出すことです。三つめは、まさに皆さんのことに他なりません。理学の素養を身につけた皆さんが、将来社会に出て課題に直面した際には、課題の表層にとらわれず、その課題がどのように生まれ、何が本質かを深く考え、広範な科学的知見の中から有効なものを探り当て、解決策の立案に役立てることができることでしょう。アカデミアに進んでも企業等に就職しても、真理探究と課題解決のバランス感覚を持った社会人となることを期待いたします。
理学と社会の繋がりについてもう一つ付け加えます。私たちは、サイエンスの成果が善にも悪にもつながり得る多くの例を知っています。世界には紛争が絶えず、今もウクライナで悲惨な事態が進行しています。そこでは極めて残念なことですが、先端科学の知見が軍事技術に転用されています。人類の智慧は不完全であり、科学者は自らの発見がどのようなテクノロジーを生み出し得るかについても熟慮して行動する責任があることを忘れてはなりません。
さあ、いよいよ専門分野の学びが始まります。先人の築いた知を吸収し学びつつも、自らの疑問や好奇心、発想を大切に、世界平和に貢献する新しい知の創造に果敢に挑戦されることを願っています。
令和5年4月3日 北海道大学理学部長 網塚 浩