理学部では、博士後期課程の学生が研究や進路などについて語る「キャリアカフェ」を開催しています。近年、高度な専門性と柔軟な発想をあわせ持つ博士人材への関心は高まっています。一方で「博士後期課程って実際どうなの?」と疑問を持つ学部生や修士課程の学生も少なくありません。
2026年6月18日(木)は、藪 貴さん(化学科卒、現在、大学院総合化学院総合化学専攻物質化学コース博士後期課程1年)が、「エネルギー社会を支える研究者へ:電池研究と博士後期課程のリアル」と題し、自身の研究内容や博士後期課程への進学理由、研究者を志すきっかけについて語りました。会場には多くの学生が集まり、熱心に耳を傾けました。
研究の原点は東日本大震災
仙台に住んでいた小学4年生のとき東日本大震災を経験し、約1か月間、避難所生活を送りました。その時に普段の生活がどれほど電気やエネルギーに支えられているのかを強く実感した経験から「将来はエネルギー分野の研究者になりたい」と考えるようになり、高校時代から積極的に研究活動に取り組んできました。
なぜ電池研究なのか
近年は脱炭素社会に向けて、太陽光や風力などの再生可能エネルギーの活用が進められています。そのためには「発電する」に加えて、「貯蔵する」技術も必要です(Power-to-X)。そのメインが電池です。スマートフォンや電気自動車だけでなく、災害時の電力供給や地域インフラの維持にも関わる重要な技術です。電池研究は、震災を経験した私の原点と、社会課題が重なる分野であり、研究者として貢献したいと考えました。

次世代電池への挑戦
みなさんもご存知のリチウムイオン電池は、現在広く普及していますが、大量導入や安定供給に向けては、さらに高性能の次世代電池が期待されています。そこで私は、マグネシウム電池とカルシウム電池に注目して研究しています。これらは、高い容量密度を持ち、資源的にも豊富で安価という利点があります。性能を十分発揮させるカギとなるのが正極材料。私は、正極材料の粒子をナノサイズまで小さくして正極利用率を向上し、電池容量が十分得られるように開発しています。材料の設計・合成から構造解析、電池試作、性能評価まで一貫して行っています。研究室の充実した実験設備で多様なアイデアを試せる環境は、恵まれていると感じています。

博士後期課程は自己成長の場
修士課程まで研究を続ける中で、「現象の背後の理論は?」「もっと知りたい」「もっと技術を身につけたい」と思うようになり、博士後期課程に進学しました。迷いもありましたが、この研究室なら十分なサポートを受けながら成長できると感じ、進学を決断しました。現在は、さらに計算科学や物理学的な知識など、新しい分野にも挑戦しています。
研究の面白さは、仮説を立て(Plan)、実験で検証し(Do)、その結果を考察して(Check)次の挑戦につなげる(Action)ことにあります。いわゆるPDCAサイクルを繰り返しながら、自分自身が成長していく感覚を楽しいと感じています。

博士後期課程の支援制度とその先
経済的支援については、学振や北大EXEXフェローシップはもちろんですが、最近は民間財団の支援が非常に充実していますので、有効活用していければという状況です。
博士号取得後は、大学や研究所などのアカデミアで研究を進めるか、企業の研究職に就くか、に大きく分かれます。私は博士後期課程に入ったばかりなので、これから情報を集めて考えていきたいと思っています。
メッセージ
深く考えたい問いがある人には、博士後期課程進学は強い選択肢になります。迷っている人は、制度や生活、研究テーマなど具体的に知って検討するために、実際に先輩に話を聞いてみて下さい。研究室見学や、教員に直接アプローチすることをお勧めします。


※肩書、所属は、2026年取材当時のものです。
キャリアカフェ2026 「学部の学びのソノサキ」
理学部が開催するランチタイムセミナー形式の企画。博士後期課程の学生が自身の研究や進路について語り、学部生がお昼を食べながら気軽に参加できる場です。
https://www2.sci.hokudai.ac.jp/event/24538