理学部生物科学科/高分子機能学の比能 洋教授(先端生命科学研究院)と生命科学院修士課程の浦上彰吾氏らの研究グループは,糖タンパク質上の糖鎖の位置選択的切断と糖鎖選択的イオン化の同時実現により,直接糖鎖パターンだけを調べることができるMALDIグリコタイピング技術を発表しました。
ポイント
・糖タンパク質糖鎖の位置選択的切断と選択的イオン化を同時に実現する技術の開発に成功。
・前処理なしで糖タンパク質の糖鎖パターン解析とペプチド配列解析を自在に切り替え解析可能。
・疾患診断やバイオ医薬品品質管理の迅速化(30分以内)と低価格化(数百円)への貢献に期待。
研究成果の概要
タンパク質などの糖鎖修飾パターン情報は,血液型や感染症・共生菌宿主の決定など,それぞれの生物を特徴づける重要なバイオマーカーです。実際に糖鎖パターンの違いや変化を読み取る技術は,癌診断や治療効果の確認,再生医療における品質管理,バイオ医薬品の体内動態予測など,現在の生命科学の発展を支えています。しかし,糖タンパク質上の糖鎖パターン解析には,糖鎖の選択的切断と分離精製などの多段階の前処理工程が必要でした。
今回の研究では,研究グループが開発した糖鎖選択的イオン化を促進する質量分析用試薬(マトリックス)と糖タンパク質を混ぜるだけのマトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析法(MALDI-MS法)により,糖タンパク質上の糖鎖パターンを直接解析できることを発見しました。また,この発見に伴いマトリックスの選択のみで糖タンパク質のペプチド配列解析と糖鎖パターン解析を自在に切り替えながら構造全体を調べることが可能となりました。
質量分析技術は測定対象物に含まれる分子群のパターンをまとめて解析できるため,食品衛生管理や輸入品,ドーピング等の検査現場では対象分子ごとに高価な測定キットが必要なPCRや抗原・抗体検査から質量分析への転換が進行しています。しかし,糖タンパク質の糖鎖パターン情報の直接解析は糖鎖のイオン化効率が低く,ペプチドイオン情報にかき消されるため,実現困難と考えられていました。本技術は分子診断技術の転換を加速する技術となることが期待されます。
本研究成果はAnalysis&Sensing誌に,本文は2021年12月14日(火),カバー写真は2022年2月22日(火)にオンライン掲載されました。
本研究成果は,北大プレスリリース(https://www.hokudai.ac.jp/news/2022/03/maldi.html)にも掲載されていますので,より詳しい内容はそちらの記事もご覧下さい。
論文情報
論文名 Glycan Selective MALDI In-source Decay Analysis of Intact Glycoprotein
(糖鎖選択的 MALDIインソース分解法による無処理糖タンパク質の解析)
著者名 浦上彰吾(北海道大学大学院生命科学院),比能 洋(北海道大学大学院先端生命科学研究院)
雑誌名 Analysis&Sensing(分析化学の専門誌)
DOI 10.1002/anse.202100040(本文), 10.1002/anse.202200008(カバー写真)
公表日 2021年12月14日(水)本文,2022年2月22日(水)カバー写真(オンライン公開)