生物科学科(生物学)行動神経学系の小川研究室では、大学院生(2021年3月修了)の佐藤和さんらが得たコオロギの逃避行動をモデルとした研究で行動選択に関する新しい知見を、この度論文として発表しました。動物の行動選択を理解するうえで重要な知見です。
発表論文:Nodoka Sato, Hisashi Shidara, and Hiroto Ogawa (2022) Action selection based on multiple-stimulus aspects in the wind-elicited escape behavior of crickets. Heliyon 8: e08800. (DOI: 10.1016/j.heliyon.2022.e08800)
以下、小川宏人教授による解説です。※解説全文は生物科学科(生物学)のページをご覧ください。
私たちは刺激を受けたとき、その刺激に含まれる様々な側面から刺激の源になっている物体や現象を認識し、適切な行動を選択します。例えば、私たちが店先で棚に置かれたたくさんのリンゴから一つを選ぶとき、「美味しそうな色をしているのはどれ?」、「大きそうなのはどれ?」、「形の良いのはどれ?」など、リンゴという物体から得られた刺激のいろいろな情報に基づいて手に取っています。動物も様々な状況において常に行動選択を行っており、特に生命を脅かす危険に対し適切な行動を選択することは動物の生死に直結します。逃避行動は危機を回避するための効果的な行動として様々な動物に普遍的に存在しますが、その行動は必ずしも1種類の定型的な反応ではなく、実は複数の異なる行動戦略が含まれています。例えば、フタホシコオロギは短い気流パフを天敵の接近として捉え逃避行動を行いますが、それは主に“Running”と“Jumping”があり(図1A, Sato et al., 2017)、それぞれ逃避行動として異なる長所と短所を持っています(Sato et al., 2019)。この異なる行動戦略間の選択が刺激のどのような情報によって左右されるのかは不明でした。そこで私たちは、コオロギに様々な強さ(速度)、長さ(持続時間)の気流刺激を8つの異なる方向から与えた時の逃避行動を高速度ビデオカメラで撮影し、どのような刺激パラメータが逃避行動の選択に影響するのかを調べました。
その結果、十分強く長い(0.83 m/s,200 ms)気流刺激では80%以上の確率で逃避行動が誘発され、その運動はRunningとJumpingがおよそ同じ割合で選択されました。前から刺激されたときよりも、横から、そして後から刺激されたときの方が、よりジャンプの割合が増えていく傾向がありましたが、統計的には有意ではありませんでした。つまり、コオロギはどこから襲われても同じくらいの割合でRunningとJumpingを選んでいることになります。しかし様々な速度や持続時間の刺激に対する反応を解析したところ……(続きはこちら→生物科学科(生物学)のページ)