ポイント
・高温ストレスによって活性化するレトロトランスポゾンONSENの転移を誘導したシロイヌナズナから、早咲き変異体「yunohana」を発見しました。
・yunohanaでは、親系統のnrpd1変異体よりも少ないロゼット葉数で開花し、この早咲き形質は次世代にも安定して受け継がれました。
・本研究は、環境ストレスによって活性化するトランスポゾンが、植物に遺伝可能な変異を生み出し、発生形質の多様化に関わる可能性を示しました。
概要
形態機能学系のSari Sarenさん(生命科学院・博士後期課程)と伊藤秀臣准教授、石川県立大学の高木宏樹教授らからなる研究グループは、高温ストレスによって活性化するレトロトランスポゾンONSENの転移を誘導したシロイヌナズナから、通常より早く花を咲かせる変異体を発見し、この変異体を「yunohana(ユノハナ)」と名付けました。
ONSENは、高温によって活性化する「動く遺伝因子」です。通常、その活動はDNAメチル化などによって抑えられていますが、nrpd1変異体では、高温ストレスによってONSENの転移が誘導され、その挿入が次世代に受け継がれます。
本研究では、ONSENの転移を誘導したnrpd1変異体の子孫から、安定した早咲き形質を示すyunohanaを単離しました。全ゲノム解析と遺伝解析の結果、yunohanaには複数の新規ONSEN挿入が存在し、早咲き形質に関連する候補領域として見いだされました。
本研究は、環境ストレスによるトランスポゾンの活性化と、次世代に受け継がれる植物の発生形質の変化との関連を示す成果です。
研究の背景と結果
植物ゲノムに存在するトランスポゾンの多くは、DNAメチル化などによって通常は抑制されています。しかし、一部は環境ストレスによって活性化します。ONSEN(AtCOPIA78)はその代表例であり、高温によって強く活性化するレトロトランスポゾンです。
研究グループは、RNA依存性DNAメチル化(RdDM)に異常を持つnrpd1変異体に37℃の高温ストレスを与えてONSENの転移を誘導し、新規挿入を持つ35系統を調べました。その結果、親系統より早く開花する変異体を発見し、yunohanaと名付けました。yunohanaはnrpd1より少ないロゼット葉数で開花し、この形質は次世代にも安定して受け継がれました(図)。
全ゲノム解析と遺伝解析の結果、yunohanaには複数の新規ONSEN挿入が存在し、AT1G50130、AT1G07240、AT3G22100付近などが早咲き形質に関連する候補として見いだされました。 また、定量PCR解析では、yunohanaで開花抑制遺伝子FLCの発現低下と開花促進遺伝子FTの発現上昇が認められました。
これらの結果は、高温ストレスによって活性化するONSENの転移と、次世代に受け継がれる植物の発生形質の変化との関連を示しています。
今後への期待
本研究により、高温ストレスによってONSENの転移を誘導した植物集団から、次世代にも安定して受け継がれる早咲き変異体yunohanaが得られました。
今後、候補となったONSEN挿入部位について詳細な遺伝解析や相補実験を行うことで、yunohanaの早咲き形質を引き起こす遺伝的要因の特定が期待されます。また、環境ストレスによるトランスポゾンの活性化が、植物ゲノムに新たな遺伝的変異を生み出し、植物の発生や環境適応、さらには進化にどのように関わっているのかを理解することにもつながると期待されます。
研究支援
本研究は、International Graduate Program (IGP) の支援を受けて実施されました。

野生型(Col-0)、nrpd1変異体、yunohanaの開花時期を比較しました。親系統のnrpd1では開花時のロゼット葉数が平均20枚であったのに対し、yunohanaでは平均15枚となり、より早く開花しました。この早咲き形質は次世代にも安定して受け継がれました。
論文情報
論文名:An early-flowering nrpd1 mutant generated by stress-induced ONSEN mobilization
著者名:Sari Saren, Hiroki Takagi, Kaisei Miyaki, Hidetaka Ito
掲載誌:Jurnal of Plant Research
DOI:10.1007/s10265-026-01757-6