多様性生物学系の加藤徹准教授らの研究グループは、北海道大学苫小牧研究林および札幌キャンパス内の「恵迪の森」を含む北海道の各地で、これまで知られていないショウジョウバエを新たに発見し、ホクダイショジョウバエと名付けました。このハエは、東アジアに広く分布するサキグロショウジョウバエ(Lordiphosa collinella)とよく似た形態を持ち(図1)、道内各地で両者が一緒に採集されます。しかし、サキグロショウジョウバエはニリンソウなどの春植物を中心に様々な草本から採集される一方、このハエはツゲ科の常緑低木であるフッキソウの群落からよく採集されます(図2)。
本研究は、このハエをLordiphosa yuktopakina(“yuktopakina”はアイヌ語でフッキソウを指す)の学名で新種として記録するとともに、統合分類学のアプローチによる調査を行いました。具体的には、地理分布の調査、形態比較、交配実験、核型分析、DNA分析、および繁殖生態の調査を行い、得られた結果を統合して検証することで、ホクダイショウジョウバエが進化した道筋を明らかにしようと試みました。
その結果、このハエは、フッキソウを専門に餌として利用することに加え、雌成虫の導卵突起(産卵管)が鋭く(図3)、幼虫の咽の骨格の一部が相対的に発達するなど、フッキソウの硬い葉や茎の利用に適した特徴を持つことが明らかになりました。また、DNA分析と交配実験の結果から、このハエは、サキグロショウジョウバエとはわずか十数万年前に分かれて別の種に至ったことが示されました。従って、このハエは、フッキソウの硬い葉や茎の利用に適応するとともに、短期間で種分化を終えたことが明らかになりました。

【論文情報】
論文名:Recent speciation with host change in the genus Lordiphosa Basden (Diptera: Drosophilidae) breeding on decayed herbaceous plants, with description of a new species based on integrative taxonomy.
著者名:Kei Mitsuhashi, Hiroyuki F. Izumitani, Masanori J. Toda, Hide-aki Watabe, Yoshitaka Kamimura, Aya Takahashi, Jian-Jun Gao, Toru Katoh
雑誌名:Entomological Science
DOI:https://doi.org/10.1111/ens.70005
【用語解説】
・統合分類学:形態、DNA、生態、行動、地理分布など複数の情報を統合して生物を分類するとともに、それらの類縁関係や進化の道筋を探る研究。
・種分化 : 一つの生物種から別々の生物種へと分かれること。