北海道大学大学院先端生命科学研究院の塚本 卓助教らの研究グループは、南極にすむ細菌が、プロテオロドプシンと呼ばれる光受容体タンパク質を介して極限環境の中を生き抜く仕組みの一端を明らかにしました。また、それは低温環境に適応したプロテオロドプシンの機能によって支えられていることを明らかにしました。
2000年に海洋細菌から発見されたプロテオロドプシンは、現在までに地球上の様々な環境に生息する細菌に多数分布していることが確認されており、植物の光合成と並んで生態系のエネルギー循環を担う分子として生態学的な重要性が広く認識されています。しかし、ほとんどの天然の細菌はそもそも実験室で培養することが極めて困難であり、そのため、天然の細菌がプロテオロドプシンを介して実際にどのように光を利用しているのかを実験によって示した例は少ない状況でした。
そこで本研究では、プロテオロドプシンを持ち、実験室で培養可能な南極の赤雪由来の好冷性細菌Hymenobacter nivis P3T(これ以降、H. nivis)を用いて、光で活性化するプロテオロドプシンの機能とH. nivisの光応答性を結びつけ、H. nivisの光利用の実態を実験によって示すことを試みました。その結果、H. nivisは光を受けるとプロテオロドプシンを介して細胞の内外にプロトン駆動力を作り、それを使ってアデノシン三リン酸(ATP)が合成され、作られたATPがH. nivisの細胞増殖に使われるという一連の生物応答を、実験によって示すことに成功しました。さらに、南極の低温環境に適応したH. nivisのプロテオロドプシンの機能を明らかにしました。
なお、本研究成果は、2024年9月17日(火)公開のBiochemistry誌に掲載されました。
【ポイント】
- 光受容体タンパク質の一種であるロドプシンの機能と、細菌の光応答性を結びつけることに成功。
- 低温環境に適応したイオン輸送機能が、極限環境での生命活動を支えていることを解明。
- 第二の光合成とも呼ばれるロドプシンの生物学的及び生態学的役割のさらなる解明に期待。
プレスリリース:南極の微生物が極限環境の中で生き抜く戦略の一端を解明~生態系のエネルギー循環を担うロドプシンの生物学的意義の解明に貢献~(先端生命科学研究院 助教 塚本 卓)