【ポイント】
- 銅酸化物の母物質へ微量の酸素をドープすることで超伝導を発現させることに成功。
- 巨大な磁気モーメントが整列するネール状態中での超伝導状態を観測。
- 反強磁性秩序と共存する超伝導状態の理解の進展に期待。
【概要】
北海道大学大学院理学研究院の井原慶彦講師、小田 研招へい教員、京都大学大学院理学研究科の石田憲二教授らの研究グループは、銅酸化物高温超伝導体の母物質として最も古くから知られている反強磁性絶縁体La2CuO4に対して、微量の酸素をドープすることで、超伝導転移温度が32ケルビンに達する超伝導状態を発現させることに成功しました。これまでの銅酸化物高温超伝導体では、LaをSrやBaに元素置換することで反強磁性秩序を抑制し、超伝導を発現させていました。ところが、本研究で実現した微量酸素ドープでは反強磁性秩序がほとんど抑制されず、低温で超伝導状態と共存することが明らかになりました。反強磁性と共存する超伝導状態は、多層型銅酸化物超伝導体や鉄系超伝導体などで報告されていますが、伝導キャリアのほぼすべてが反強磁性に寄与するネール状態での超伝導はこれまで報告例はありませんでした。反強磁性と超伝導という二つの状態を同時に実現する銅酸化物高温超伝導の「二面性」が明らかになり、新たな研究展開の可能性が期待されます。
なお、本研究成果は、日本時間2025年8月27日(水)公開のScientific Reports誌に掲載されました。

論文名:Superconductivity emerging from the Néel state in infinite-stage single-layer cuprate La2CuO4+δ(無限ステージLa2CuO4+δにおけるネール秩序状態中で発現する超伝導)
著者名 :井原慶彦 1 、Ramender Kumar1(研究当時)、宮腰宏太2(研究当時)、⼩⽥ 研1 、⽯⽥憲⼆3 、(1北海道⼤学⼤学院理学研究院、2北海道⼤学⼤学院理学院、3京都⼤学⼤学院理学研究科)
雑誌名:Scientific Reports(⾃然科学の専⾨誌)
DOI:10.1038/s41598-025-11950-7
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