北海道大学大学院先端生命科学研究院の石原すみれ助教、上原亮太准教授及びハンガリーのセンメルヴェイス大学のエヴァ=マーギッタイ准教授らの研究グループは、ヒト培養細胞を用いてゲノムを1コピーしかもたない「半数体」状態が著しい不安定性を示す一要因を分子レベルで特定しました。
多くの脊椎動物の体細胞は、2コピーのゲノムをもつ「二倍体」状態で安定な分裂増殖を行う一方、半数体状態では著しい増殖障害を伴って二倍体状態に戻ってしまうことが知られています。なぜ一揃いの完全なゲノムをもつにも関わらず、半数体がこのような不安定性を示すのかは不明でした。
本研究では、ヒト半数体細胞株とそこから樹立した同一なゲノム情報を持つ二倍体株とを用いて、半数体のゲノム不安定性が生じる要因を共培養解析・比較生化学解析等によって調べました。その結果、半数体細胞は二倍体細胞よりも小胞体ストレスに対して脆弱であり、同等レベルの小胞体ストレスに対してより強い細胞死誘導シグナルが引き起こされ、死に至ることが明らかになりました。
さらに、比較イメージング解析により、半数体細胞株では不良タンパク質の解消能力が低いために小胞体ストレス状態に陥りやすいことを突き止めました。加えて、分子シャペロンの投与により不良タンパク質の解消能力を補填すると半数体のゲノム不安定性が改善されることを確認しました。
本研究成果は、脊椎動物細胞が半数体で安定増殖できない根本的原因を説明するとともに、安定な半数体細胞を用いた遺伝子工学資源開発を促す知見を提供することが期待されます。
なお、本研究成果は、2024年10月19日(土)公開のJournal of Biological Chemistry誌にオンライン掲載されました。
【ポイント】
- ヒト正常二倍体細胞に比べ、半数体細胞は著しい小胞体ストレスへの脆弱性を示すことを発見。
- 半数体状態では細胞の不良タンパク質解消能が低く、細胞死促進シグナルが誘発されやすくなる。
- 不良タンパク質の解消能を補填すると、半数体細胞のゲノム不安定性が改善することを発見。
プレスリリース:ヒト半数体細胞の増殖が制限される新たな原理を発見~ゲノムコピー数に応じた小胞体ストレス抵抗性の変化が鍵~(先端生命科学研究院 准教授 上原亮太)