生物科学科/高分子機能学の比能 洋教授(北海道大学大学院先端生命科学研究院)とBryan M. Montalban博士(論文発表時は北海道大学大学院生命科学院博士後期課程学生)の研究グループは同研究院の西村紳一郎教授が開発した糖鎖捕捉技術Glycoblottingを活用し、従来の主要糖鎖に加え、硫酸化およびリン酸化修飾を受けた微量糖鎖成分をマトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析法(MALDI-MS)により迅速解析する技術を開発しました。
Glycoblotting法は糖鎖の還元末端を標的として糖鎖を選択的に捕捉する技術です。Glycoblotting法で糖鎖をMALDI-MSにより分析する際は、シアル酸等の酸性糖残基をメチル化により中性化して他の中性糖鎖とイオン化効率をそろえることにより迅速かつ定量的な一斉解析を実現しています。しかし、糖タンパク質上の糖鎖の一部はさらに硫酸基やリン酸基で修飾を受けているのですが、これらの官能基を完全に中性化することは困難であり、その含量が少ないため、従来法では測定が困難でした。さらに、硫酸基とリン酸基の分子質量差が0.1以下であるため、それぞれを質量分析で識別することが困難でした。
比能教授とBryan M. Montalban博士はGlycoblotting法でカルボン酸をメチルエステル修飾する際に、硫酸基ではメチルエステル化が生じず、リン酸基ではモノメチルエステル化が生じ、それぞれ分子量の異なる一価の陰イオンとなることに着目し、Glycoblotting法と弱アニオン交換法を組み合わせることによる迅速な硫酸・リン酸化グライコミクス法(sulphoglycomics)を開発することに成功しました。この成果は感染症や癌などに関与する糖質バイオマーカーの探索とワクチン開発などによるその医療応用を加速する技術です。
本研究成果は2023年6月14日(水)公開のProteomics誌にオンライン掲載され、2023年10月4日(水)に同誌のフロントカバーとしてコンセプトイメージが採択されました。
論文名:Glycoblotting enables seamless and straightforward workflow for MALDI-TOF/MS-based sulphoglycomics of N- and O-glycans
著者名:Brayan M. Montalban, Hiroshi Hinou
URL:
https://analyticalsciencejournals.onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1002/pmic.202300012
DOI 10.1002/pmic.202300012
フロントカバーURL:
https://analyticalsciencejournals.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/pmic.202370151