生物科学科(生物学)多様性生物学・進化学系の角井敬知講師の研究グループは、汽水域や浅海域、深海底から得られたサンプルを研究する過程で名前のついていない小型水生甲殻類を複数種見出し、それらを新種として記載・論文で発表しました。
以下、関連する3つの論文に関する紹介です。
岡本暢躍さん(2021年度理学院修士課程修了)が主導した研究では、千葉県鴨川市小湊の潮間帯から得られたタナイス目甲殻類の一種を新種として報告しました。甲羅の背側の模様がエンピツの先を彷彿とさせたことから、ギリシャ語でエンピツを意味する「molybi」を含む「Zeuxo molybi」という学名としました。和名は「エンピツ ナミ タナイス」としました。
平野今日子さん(2021年度生物科学科(生物学)卒業)が主導した研究では、山口県萩市を流れる水路の下流域から得られたタナイス類の一種を新種として報告しました。従来Sinelobus stanfordiという学名で呼ばれていた種について詳細な研究を行ったところ、名前のついていない種(未記載種)と判断されたため、「キスイ タナイス」という既に与えられていた和名と、本種の生息する環境である「汽水域」(河口など淡水と海水の混ざる水環境)にちなんで「Sinelobus kisui」という学名としました。
白木祥貴さん(理学院修士課程2年)が主導した研究では、研究調査船「淡青丸」の航海中に房総半島の南方水深445–407 mから採集されたウミナナフシ上科甲殻類の一種を新種として報告しました。体の最後方に備わる「尾肢」という構造の「外肢」という部分が、たまごのような形に見えたことにちなんで「Kupellonura tamago」という学名としました。和名は「タマゴ ハラナガ ウミナナフシ」としました。なお本研究はハラナガウミナナフシ科に属するウミナナフシ類の日本初報告になります。
タナイス類やウミナナフシ類を含む小型水生甲殻類の多様性については、まだまだ研究が十分とは言い難い現状にあります。今後も調査・研究を進めることで、より多くの未報告種の発見が期待されます。
発表論文:Okamoto N, Kakui K (2022) Integrative taxonomy of Zeuxo (Crustacea: Peracarida: Tanaidacea) from Japan, with the description of a new species. Biologia. (online first) (DOI: 10.1007/s11756-022-01121-8)
発表論文:Hirano K, Kakui K (2022) A new brackish tanaidacean, Sinelobus kisui sp. nov. (Crustacea, Peracarida, Tanaidacea), from Japan, with a key to Sinelobus species and barcode information from two loci. Zoosystematics and Evolution, 98:245–256. (DOI: 10.3897/zse.98.84818)
発表論文:Shiraki S, Shimomura M, Kakui K (2022) First report of Hyssuridae (Isopoda: Anthuroidea) from Japan, with the description of a new Kupellonura species. Nauplius, 30:e2022023. (DOI: 10.1590/2358-2936e2022023)