理学を志す皆さんへ
北海道大学理学部は、本学が総合大学としての歩みを始めるのと時を同じくして設置され、2030年には創立100周年を迎えます。長い歴史の中で理学部は「知」を探求し続け、その蓄積は未来を拓く礎となってきました。
現在の理学部は、数学科・物理学科・化学科・生物科学科(生物学専修・高分子機能学専修)・地球惑星科学科の5学科・2専修からなり、学生はそのいずれかに所属し、専門性を磨いていきます。その第一歩は、先人が築いた「知」の体系を学ぶことから始まります。理学とは、既存の「知」の延長線上にある未知の現象を理解するだけでなく、既存の枠組みでは説明できない事象に直面したとき、新たな「知」を切り拓く営みです。多くの学生は、自身がそれまでに学んできたことが、その広大な「知」の世界の一端に過ぎないことに気づき、圧倒されることもあるでしょう。
理学の研究は、「自然界の現象をより深く理解したい」「未知の法則を見出したい」という知的好奇心に突き動かされて進展してきました。そのため、一見すると社会とのつながりが見えにくいかもしれません。しかし、考えてみてください。現在、世界を席巻しているAI技術の基盤となる「知」は、数十年前に数学に代表される理学の基礎研究によって確立されたものです。同様に、量子コンピューターや遺伝子工学の基礎となる「知」は、100年以上前の純粋な知的好奇心から生まれたものです。それが時を経て、未知の現象を理解する枠組みとして体系化され、やがて人類の生活を一変させる可能性を持つ技術へと発展しつつあるのです。このような例は枚挙にいとまがありません。理学の研究は、目の前の課題に即座に応えるだけでなく、100年後の未来に向けた「知」への投資でもあるのです。
一方で、理学は現代社会が直面する社会的課題の解決にも重要な役割を果たしています。気候変動・エネルギー問題、医療、AI・情報技術、材料科学、ナノテクノロジー……、これらの分野において、理学の知見は不可欠です。そのため、理学部では専門的な「知」の体系を教育するだけでなく、未知の現象を研究する過程で培われる洞察力や思考力、また、コミュニケーション能力の育成にも力を入れています。これらの素養は、卒業後の進路に関わらず、社会を支える原動力となるものです。実際、理学部の卒業生は大学・研究機関のみならず、民間の研究開発、データサイエンス、教育、行政、コンサルティングなど、幅広い分野で活躍しています。
未来を切り拓く力を育む北海道大学理学部の挑戦を、ぜひ支えていただければ幸いです。
第35代 北海道大学理学部長 永井 隆哉
理学部長プロフィール
1988年 | 東京大学理学部 卒業 |
1992年 | 東京大学大学院理学系研究科博士課程 中退 |
1992年 | 大阪大学教養部 助手 |
2003年 | 北海道大学大学院理学研究科 助教授 |
2007年 | 北海道大学大学院理学研究院 准教授 |
2010年- | 同 教授 |