水素とナノファイバーを同時合成する光触媒を開発~次世代水素社会への貢献に期待~

【ポイント】
- セルロースから水素とナノファイバーを同時合成する光触媒の開発に成功。
- 光触媒化学、分光分析、データ科学の融合で複雑系触媒の設計・理解を高度化。
- 持続可能な社会を支える水素原料の多様化に期待。
【概要】
北海道大学大学院理学研究院の小林厚志准教授、三浦篤志准教授、高橋啓介教授らの研究グループは、金属錯体色素を複層化した光触媒ナノ粒子とアルコール酸化触媒分子を連動させることで、持続利用可能な資源であるセルロースからクリーンエネルギー源となる水素と高機能材料となるセルロースナノファイバー(CNF)を、環境負荷なく同時合成できる光触媒を開発しました。
近年深刻化する環境・エネルギー問題の解決に向けて、化石資源に変わる持続利用可能な炭素資源としてセルロースが注目を集めてきました。セルロースは地球上に最も豊富に存在するバイオマス資源ですが、安定な構造を有しているため資源化には多大なコストが必要でした。これを克服するために、無尽蔵な太陽光エネルギーを利用できる光触媒を用いた手法も開発されていますが、環境負荷の高い反応条件が必要とされ、有用生成物まで光分解してしまう問題を抱えていました。
そこで研究グループはまず、白金担持酸化チタンナノ粒子の表面に可視光を吸収する2種類の金属錯体色素を逐次積層することで、水素を生成する色素二層化光触媒DDSPを合成しました。これに、セルロースを酸化する触媒として有機ラジカルTEMPOを組み合わせることで、セルロースからCNFを合成しつつ、クリーンエネルギー源として期待される水素も合成できる光触媒系を構築しました。セルロースを分散させた水中における水素生成光触媒活性を評価したところ、色素担持条件に依存して最大90倍もの活性差が生じることが分かり、機械学習を活用した解析によって2種類の錯体色素の担持順序と二酸化チタンナノ粒子表面に直接結合する色素量が活性を支配する重要因子であることが明らかとなりました。セルロース紙へDDSPを塗布すると、塗布した部分が水素を生成しながら光溶解し、溶出液にCNFが生成することや、市販の木質ペレットをセルロース源として用いても、水素が生成できることも実証しました。
本研究により、地球上で最も豊富に存在する炭素資源であるセルロースが、CNFの原料だけでなく、クリーンエネルギー源である水素の原料としても活用できることが示されました。また、安定なセルロースを室温・水中における青色光照射という温和な条件で光溶出できたことから、持続利用可能な炭素資源としてのセルロースの利活用がさらに促進されると期待されます。さらに本研究は、光触媒の合成・評価、分光分析による反応メカニズムの可視化、さらには機械学習を活用したデータ科学という異なる専門分野が有機的に融合することで初めて実現された成果です。これにより、従来は経験と試行錯誤に頼っていた複雑系光触媒の設計が、構造と機能の関係を科学的に把握しながら加速される道筋が示され、さらなる発展が期待されます。
なお、本研究成果は、2025年8月26日(火)公開のRSC Sustainability誌にオンライン掲載されました。
論文名:Photocatalytic dissolution of cellulose for hydrogen and nanofiber production: unveiling crucial factors via experiments and informatics(セルロースの光触媒的溶解による水素とナノファイバー生産:実験とインフォマティクスに基づく重要因子の解明)
URL:https://doi.org/10.1039/d5su00054h
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