研究ニュース

AIから導くバンドギャップ設計とペロブスカイト合成~AI実験を融合した無機材料開発フローを実現

【ポイント】

  • ペロブスカイト材料のバンドギャップを予測する記述子を発見。
  • 1,800超の化合物を予測し、目的に適した新規材料の合成に成功。
  • 構造・組成・光学特性を一致させたバンドギャップ設計の実証。

【概要】

北海道大学大学院理学研究院の髙橋啓介教授、髙橋ローレン助教、フェルナンド・ガルシア=エスコバル博士研究員、同大学大学院理学院博士後期課程1年の田代智哉氏、修士課程2年の柴田憲伸氏らの研究グループは、機械学習によってバンドギャップ(光吸収の指標)を精密に予測・設計できるペロブスカイト無機材料の開発手法を確立しました。

これまで、ペロブスカイト材料は太陽光を効率的に吸収できる優れた構造として知られていましたが、バンドギャップがわずかな構造変化で大きく変動するため、材料設計は困難でした。

本研究では、過去の文献に基づく282件の実験データを用い、材料中の元素の性質と構造に基づく記述子(特徴量)を数千種類生成しました。研究グループが独自開発したMonteCat法を用い、バンドギャップに強く関与する24個の記述子を選び出し、予測精度の高いサポートベクター回帰モデルを構築しました。

このモデルを用いて、1852種類の仮想ペロブスカイト化合物のバンドギャップを一括予測しました。その中から、太陽光エネルギー変換に適したバンドギャップ(0.45-2.2 eV)と構造安定性を持つと予測された86種を抽出し、最終的にLaCrO₃、LaFeO₃、YFeO₃、YCrO₃の4種を実際に合成しました。合成後のX線回折(XRD)、走査電子顕微鏡(SEM-EDS)、紫外可視近赤外分光(UV-vis-NIR)による評価では、すべての材料で構造・組成・バンドギャップが予測通りであることを確認しました。これは、機械学習で設計した記述子に基づく材料設計が、実験によっても実証されたことを意味します。

本研究のように、機械学習による記述子選定・予測、そして実験合成と特性評価までを一貫して行うことで、バンドギャップなどの特性を自在に設計する”インフォマティクス主導型の材料開発”が可能になることが示されました。

本成果は、再生可能エネルギー活用や光触媒、水分解用材料の加速的開発に資するだけでなく、材料インフォマティクスと実験を統合した設計フローの基盤となります。研究グループは、今後さらに複雑な材料系や他の光・電気・磁性特性への展開も視野に入れ、記述子駆動型の材料探索を拡張していく予定です。

本研究成果は、日本時間2025年8月19日(火)公開の英国王立化学会のフラッグシップジャーナル Chemical Science誌にオンライン掲載されました。

論文名:Designing and Synthesizing Perovskites with Targeted Bandgaps via Tailored Descriptors(高度に練り上げた記述子によるバンドギャップを制御したペロブスカイト合成)
URL:https://doi.org/10.1039/d5sc04813c

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