世界最長のアントラセンオリゴマーの詳細な調査に成功 ~新たな設計指針の獲得により次世代型分子スイッチの開発に期待~
【ポイント】
- アントラセンユニットが最大で6個連結した化合物のX線構造解析と特性調査に成功。
- アントラセンの数に応じた酸化過程を示し、電子の放出がクーロンの法則に従うことを解明。
- ユニット数によって異なるスイッチング挙動を示すため、分子素子開発に向けた設計指針を獲得。
【概要】
北海道大学大学院理学研究院の石垣侑祐准教授と鈴木孝紀教授、同大学大学院総合化学院博士後期課程の林 裕貴氏及び大阪大学大学院基礎工学研究科の鈴木修一准教授らの研究グループは、「カチオンキャッピングアプローチ」を考案し、溶解性の問題により従来は調査が困難だったアントラセンオリゴマーの単離、X線構造解析及び詳細な調査に成功しました。
アントラセンの9、10位で直鎖状に連結したアントラセンオリゴマーに着目すると、これまでの報告例ではアントラセンが四つ以上連結した誘導体の生成が質量分析により確認されているものの、X線構造解析により構造が確認されたオリゴマーはアントラセンが三つのものに留まっていました。これは、アントラセンのような大きな骨格を連結した場合、溶解性が著しく低下するという問題があるためです。研究グループは、置換基をもたないアントラセンオリゴマーの末端にカチオンユニットを導入した一連の炭化水素ジカチオン(アントラセンの数が1~6個)を設計しました。詳細な調査によって、各ユニット間が直交した構造をとることを示し、一般的な有機溶媒への高い溶解性と各酸化還元状態の高い安定性も獲得可能なことを明らかにしました。直交構造により各ユニット間にはほとんど相互作用がないため、アントラセンユニットの酸化電位がクーロンの法則に従うことを、初めて実験的に証明しました。
また、これらのジカチオンを二電子還元した中性状態も安定に取り出すことができるため、アントラセンの数に応じて異なるスイッチング挙動を示すことを見出し、適切な外部刺激を与えることで三つの状態を行き来可能なことを示しました。これにより、アントラセンオリゴマーの単離、X線構造解析及び詳細な調査が可能となり、色調、磁気特性、酸化還元特性といった物性を自在に制御可能な分子スイッチ群を構築できるようになりました。
なお、本研究成果は、2023年1月6日(金)公開のJournal of the American Chemical Society誌にオンライン掲載されました。
論文名:Dibenzotropylium-Capped Orthogonal Geometry Enabling Isolation and Examination of a Series of Hydrocarbons with Multiple 14π-Aromatic Units(ジベンゾトロピリウムでキャップした直交構造により実現された14π芳香族ユニットを複数もつ一連の炭化水素の単離と調査)
URL:https://doi.org/10.1021/jacs.2c12574
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