研究ニュース

繰り返し配列のDNAヘテロクロマチン化される仕組みを解明~40年来の謎に答える新しいモデルを提唱

【ポイント】

  • 繰り返し配列のDNAがヘテロクロマチン化される現象を人為的な系で再現することに成功。
  • ヘテロクロマチンを除去する因子が、繰り返し配列ではヘテロクロマチン化を促進することを解明。
  • 提唱された新しいモデルに基づく病気の治療法の探索に期待。

【概要】
北海道大学大学院理学研究院の村上洋太教授及び浅沼高寛学術研究員、東京大学大学院理学系研究科の稲垣宗一准教授、角谷徹仁教授及び東京大学先端科学技術研究センターの油谷浩幸シニアリサーチフェローらの研究グループは、真核細胞において繰り返し配列のDNAが選択的にヘテロクロマチン化される仕組みの一端を明らかにすることに成功しました。

真核生物のDNAは、ヒストンと呼ばれる蛋白質に巻き付いた数珠状の構造になって核内に収められています。この構造はクロマチンと呼ばれ、その性質からユークロマチンとヘテロクロマチンに大別されます。ユークロマチンではDNA上の遺伝子は活発に発現する一方、ヘテロクロマチンでは遺伝子の発現が強制的に抑制されます。この対照的な2つの状態はDNAが巻き付いているヒストンの化学修飾によって決まっており、例えばヘテロクロマチンの場合、そのメチル化修飾(H3K9me修飾)によって特徴づけられることが知られています。このようなクロマチンの状態を介した遺伝子の発現制御は様々な生命現象に関与しており、真核細胞が持つ根本的な仕組みの一つだと考えられています。

興味深いことに、その研究過程の1980年代から、ヘテロクロマチンは繰り返し配列になったDNA領域において形成される傾向があることが指摘されてきました。この傾向は、特定の塩基配列を基本単位とする繰り返し配列に限らず、遺伝子全体が重複して繰り返しになった場合も同様にみられることが現在までに分かっています。これらの事実は、真核細胞は何かしらの方法でDNA配列が”繰り返しになっている”という特徴を認識し、その領域におけるヘテロクロマチン形成を促進しているということを示唆しています。しかし、その仕組みは未だ明らかになっていません。

今回研究グループはモデル生物である分裂酵母を用いてこの現象を人為的に再現し、本来はヘテロクロマチンを除去する(つまりはH3K9me修飾を除去する)蛋白質が、繰り返しDNA配列ではRNAiという機構を介して逆にヘテロクロマチン形成(つまりはH3K9me修飾)を促進するという、相反する2つの役割を果たしていることを明らかにしました。この結果は、「なぜヘテロクロマチンは繰り返しDNA配列で選択的に形成されているのか」というこれまでの問いに答える新しいモデルを提唱するものです。

繰り返し配列によるヘテロクロマチン形成は生物種を問わず様々な生命現象に関与しており、例えばヒトにおいてもその不具合によって発症する病気があることが知られています。そのため、そのメカニズムの解明は真核細胞のもつ根本的な仕組みの理解のみならず、今後ヒトにおける病気の治療法の探索にも有用であると考えられます。

なお、本研究成果は、2022年12月20日(火)公開のGenes & Development誌にオンライン掲載されました。

論文名:Tandemly repeated genes promote RNAi-mediated heterochromatin formation via an antisilencing factor,Epe1, in fission yeast(分裂酵母では直列に繰り返された遺伝子がアンチサイレシング因子Epe1を介してRNAi経路によるヘテロクロマチン形成を促進する)
URL:https://doi.org/10.1101/gad.350129.122

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