生物化学研究室

分子モーターから細胞の形づくりを解き明かす

細胞がその形や機能をつくり、維持するためには、タンパク質や膜小胞などのさまざまな物質を、必要な場所へ適切なタイミングで運ぶ必要があります。この細胞内輸送を担うのが、キネシンやダイニンといった分子モータータンパク質です。分子モータータンパク質は、ATPを加水分解して得られるエネルギーを使い、微小管と呼ばれる細胞内のレールの上を移動します。

私たちは、こうした分子モーターがどのように働き、細胞の形や機能をつくり出しているのかを研究しています。生化学、一分子レベルでの運動計測、細胞生物学、遺伝学などを組み合わせ、分子の動きから細胞、そして個体のしくみまでをつなげて理解することを目指しています。

研究内容

神経細胞の中で物質はどのように運ばれるのか

神経細胞は、細胞体から非常に長い軸索を伸ばしています。そのため、シナプスで必要となるタンパク質や膜小胞を、遠く離れた場所まで正確に運ぶしくみが必要です。私たちは、KIF1AやKIF5Aといったキネシンに注目し、これらのタンパク質がいつ、どこで働き始め、何を運び、どのように目的地まで届けるのかを研究しています。

分子モーターの異常はなぜ神経疾患を引き起こすのか

KIF1AやKIF5Aの遺伝子に変異が生じると、さまざまな神経疾患の原因になります。興味深いことに、モーターがうまく動かなくなる場合だけでなく、逆に働きすぎる場合にも細胞内輸送は乱れます。私たちは、一分子レベルでの観察、培養した神経細胞、iPS細胞由来の神経細胞、モデル生物 C. elegans などを使い、分子モーターの異常がどのように神経細胞の機能低下や病気につながるのかを調べています。

分子モータータンパク質の改変や制御

私たちは、計算科学やAIを利用してキネシンの構造を改変し、より速く、より長く動く分子モーターを作る研究も行っています。また、人工的に設計したタンパク質や小分子を使って、キネシンの働きを人為的にON・OFFしたり、強さを調節したりする技術の開発にも取り組んでいます。こうした技術を使って細胞内輸送を意図的に変化させることで、分子モーターの働きが神経細胞の形や機能にどのような影響を与えるのかを明らかにしようとしています。

研究室の特徴

私たちの研究室では、神経細胞内の物質輸送や神経細胞の形づくりを、分子から細胞、個体までさまざまなスケールで研究しています。精製した分子モータータンパク質一分子の運動を観察するところから、培養した神経細胞やiPS細胞由来ニューロンでの細胞内輸送、さらに C. elegans を使った個体レベルの解析までを組み合わせて研究することができます。また、疾患に関連する遺伝子変異を解析するだけでなく、計算科学やAIを用いて分子モーターそのものを改変したり、人工的に設計したタンパク質や小分子によってその働きを制御したりする研究にも取り組んでいます。「分子モーターはどのように制御され、動くのか」という物理・化学的な問いと、「その働きが細胞の形や機能、さらには個体にとってなぜ必要なのか」という生物学的な問いを研究できることが私たちの研究室の特徴です。