分析化学(三浦)研究室

光を駆使したエキゾチックな現象探索と新しい計測技術の開拓

研究内容

単一エアロゾル液滴を計測場とした”intrinsic”な液体物性の解明

水の凝固点は0℃であることは常識として知られていますが、空気中に浮遊するマイクロメートルスケールの微小な水滴(エアロゾル)では極めて低温(−50℃以下)まで凍らずに液体(過冷却液体)として存在する、すなわち“常識”として私たちが知っている水とは異なる性質を示すことが知られていました。最近我々は、水以外の有機液体に於いてもエアロゾル化により容易に過冷却液体化し凝固点よりも遙かに低温まで凍らないことや、エアロゾル液滴粘度が液滴の大きさに依存して変化することを世界に先駆けて明らかにしました。現在、エアロゾル液滴における“常識”と異なる性質の発現機構の解明に取り組んでいます。

微小液滴(エアロゾル)化による液滴物性変化の例。(a)ジメチルスルホオキサイド(DMSO):粘度の温度依存性,(b)エタノール: 粘度のサイズ依存性

光誘起単一高分子微粒子を分析場とする単分子レベル超高感度分析

温度応答性高分子ポリ-N-イソプロピルアクリルアミド(PNIPAM)とアルコールの混合水溶液に集光1064-nmレーザー光を照射すると、局所的な光熱変換により相分離が誘起され単一微粒子(~ 10 µm)・液滴を生じます。我々は最近、この微粒子を分離・抽出分析の場として利用すると、溶液中に分散した極めて希薄な溶質分子(濃度:10-15 Mレベル)を単一分子レベルで超高感度に抽出・検出できることを明らかにしました。単一分子レベルでの抽出分析は未踏の分野であり、この結果の微量生体物質分析法としての応用を目指した基礎研究を展開しています。

レーザー誘起単一高分子微粒子への蛍光分子一分子ごとの抽出結果とその模式図

レーザー捕捉法によるリアルタイムタンパク質結晶化法の開拓

タンパク質の性質は構造と深い相関があるため、まずその構造を明らかにすることが必要です。しかし、巨大な生体高分子であるタンパク質の結晶化はとても困難です。我々は、レーザー捕捉法を利用した簡便なタンパク質の結晶化法の開発を行っています。最近のリゾチームでの結果より、レーザー捕捉法によりタンパク質溶液中で液体−液体相分離を誘起することによる短時間かつ高効率での結晶形成・成長に成功しました。これまでに得られた知見を基に、様々なタンパク質での簡便な結晶化法の開発・確立を進めています。

レーザー捕捉誘起結晶化法により液−液相分離を経て結晶化したタンパク質分子

研究室の特徴

簡便、in situかつ高感度・高精度な微量物質計測・分析法はあらゆる分野に有用であり必要とされています。我々は光ピンセットを用い、光を局所摂動として利用することで分析・反応・計測場としての微小空間を構築し、この微小空間で光により誘起されるエキゾチックな化学・物理現象を探索し、種々の光学顕微鏡技術と顕微分光法を組み合わせて光により高感度かつ同時に計測する次世代分析法の開拓と応用を目指しています。