ナノ領域における光と物質の相互作用を解明
上野 貢生 教授 UENO Kosei/分析化学研究室
金属がナノ粒子になると起きる現象、プラズモン共鳴
私たちが扱っている物質は非常に小さなもので、インフルエンザウイルスの大きさぐらいで、髪の毛の太さの1/1000のサイズの数十nm(ナノメートル)から大きくても数百nmのサイズのものです。その中でも金や銀といった金属のナノ構造を研究しています。ナノ構造というのは、物質をナノ単位の大きさの粒子や塊にして、構造的に配置したものを指します。身近なもので紹介すると、ステンドグラスや江戸切子のように、赤色のガラスを見たことがあると思いますが、あれは金がナノ構造になることで金色ではなく赤くなる現象を利用しており、プラズモン共鳴と呼ばれています。
プラズモン共鳴というのは、金属表面に存在する自由電子が光と相互作用することで起きる現象です。金ナノ微粒子の場合は、そのサイズにもよりますが数10 nmの小さい金ナノ微粒子は緑色の光を吸収するため、人の目には赤く見えるようになります。この現象はあたかも光を金属の粒子に瞬間的に蓄えているように見えますが、実際は電場である光が自由電子に当たることで、自由電子が集団で振動する現象です。この時、粒子の大きさによって振動の起き方が決まります。
光が蓄えられるように見えることを身近な現象で表現すると、地震が起きると、震源地から揺れが伝播していき、ある地点を一瞬で通り過ぎているのに、その地点に建っている建物(ビルなど)はしばらく揺れて、あたかも地震がある地点に留まっているように感じるのと似ています。
データの容量を拡張する技術
光は波長によって色が変わることは知っていると思いますが、波長800nmの赤から、橙、黄、緑、青、藍、400nmの紫までが可視光線です。光は波長程度の広がりを持ち、どんな高性能なレンズを使っても、波長以下に絞り込むことが難しく、これを光の回析限界といいます。赤崎先生、天野先生、中村先生が青色発光ダイオードの発明に成功したことで、青色レーザーができ、ブルーレイディスクが生まれました。それまでのCDで使われていた780nmの赤色レーザーだと音楽しか入れられなかったのが、波長が短くなることで同じ面積でもより多くの情報を入れてそれを読み取れるようになりました。
それを金属のナノ構造を使うと、光を時間的に蓄え、ジョウロのようにナノメートルの空間に集めてくることができ、青色レーザーを遥かに超えるスーパーレンズがつくることができます。この技術の凄さを象徴する話があって、2000年ぐらいにアメリカのクリントン大統領が国立国会図書館の情報をすべて1センチ角の角砂糖に収めるようなナノテクノロジーを推奨したというのがありました。日本でも2002年あたりからナノテクノロジー研究が活発になりました。ナノメートルの領域に光を集めてきて、読み書きする技術もナノテクノロジー研究の重要な要素技術です。
電気抵抗等によるロスという課題と太陽光の有効利用
金属の中でも金・銀・銅を使う理由は、電気抵抗が小さく、そのため電気エネルギーのロスが小さいからです。特に、銀は光吸収によるロスも小さいです。金・銀・銅ってオリンピックのメダルみたいですが、いずれもd電子が10個全部埋まっていて、最外殻のs電子によって金属結合している電子配置が類似した金属です。
これらの金属も電気抵抗が無いわけじゃなく、このロスに打ち勝つことが目下の課題です。いまのところ、ナノ構造によるナノ空間に光を集めてくる効果は究極まで来ているので、あとは光を閉じ込める時間を伸ばすことが目標になっています。
また光を蓄える能力を高くすることができれば、弱い光でも見かけ上光を増幅することができ、今までレーザーを使わないとできなかったことを太陽光のような光でできるようになれば、エネルギー問題の解決にも貢献できます。
例えば、身近な低いエネルギーに太陽光の約50%を占める赤外光は、なかなか光反応を誘起させることができません。しかし、2つの赤外光子(光の粒)をナノ構造に相互作用させるとエネルギーの高い可視光に変換することができ、太陽電池のエネルギー源にすることが可能になります。
ポリマーと融合させてつくる遠赤外光センサー
赤外光は可視光ではないので、当然見えないのですが、遠赤外光に共鳴するアンテナを用いて光を集めてくることにより光圧を働かせ、高機能なポリマーのゲルを光圧によって濃縮することにより周囲の屈折率を変え、市販の可視CCDカメラでも遠赤外光をイメージングできるようになります。
これが役立つ例として、ある特定の波長の遠赤外光の反射をイメージングしますと、検知が困難なセキュリティーカメラになります。このように金属のナノ構造化と異分野である高分子を融合させることで、不可能を可能にするアイデアはまだまだあると思います。
私たちの研究は基礎研究なのですが、情報通信の高速化、大容量化や、エネルギー効率やセンシングなど、すぐに応用に発展していく分野で、世界的にもホットな研究です。
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みなさんが物理、化学、生物などの分野の中から化学を選んだとしても、物理系の先生もいれば、生物系の先生もいて、化学の代表的な分野である有機化学の先生もいるので、多様な分野の授業を受けることができ、さまざまな研究のインスピレーションをもらうことができることでしょう。
さらに、北大の光ナノテクノロジー研究は日本の中でも先駆的で、クリーンルームなどの施設や最先端の機器がとても充実しています。第一線の研究者と一緒に、最高の環境で思う存分自分の学びを伸ばしてください。