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エルニーニョ現象がメコンデルタ雨季に与える影響を解明ベトナムサンゴ骨格記録を用いた過去81年間の降水量の復元記録

【ポイント】

  • 現生サンゴの柱状試料を用いて、メコンデルタにおける過去81年間の降水量を復元。
  • 雨季には多雨と少雨の2パターンがあり、多雨な雨季の発生頻度と降水量は増加傾向。
  • 中央太平洋におけるエルニーニョ現象の頻発がメコンデルタの降水量に影響を及ぼすことを解明。

【概要】
北海道大学大学院理学研究院の渡邊 剛講師、同大学院理学院博士後期課程(執筆当時)の渡邉貴昭氏及びTùng Phan Thanh(ドゥン ファン タイン)氏、九州大学大学院理学研究院の山崎敦子助教(執筆当時)らの研究グループは、過去81年間にわたるメコンデルタの降水量とエルニーニョ南方振動(ENSO)との関係を解明しました。

メコンデルタは世界有数の農業地帯であり、世界のコメ供給を支える重要な地域です。しかし近年は、多発する洪水や干ばつによる本地域への影響が危惧されています。

研究グループは、2006年にメコンデルタ沖合のベトナム・コンダオ島で造礁サンゴの柱状試料を掘削しました。サンゴ骨格に含まれる酸素安定同位体比とSr/Ca比(ストロンチウム/カルシウム比)を分析し、1924〜2006年の塩分変動を復元することで、本地域における降水量の観測記録を補いました。

その結果、本地域における雨季は”洪水を伴うような多雨”と”干ばつを伴うような少雨”の2つのパターンがあることがわかりました。これら2パターンの雨季を詳しく解析したところ、洪水を伴うような多雨の雨季は近年に頻発する傾向にある一方で、干ばつを伴うような少雨の雨季の発生頻度には大きな変動が見られないことが明らかとなりました。また、過去81年間にわたってメコンデルタの雨季の降水量は中央太平洋で発生するエルニーニョ現象の影響を強く受けているものの、その影響は2パターンの雨季それぞれで異なることが示唆されました。本研究結果は、ENSOがメコンデルタにもたらす水文学的な影響を理解し、将来における洪水・干ばつ等のリスクを推測するための一助となることが期待されます。

なお、本研究成果は、2022年12月7日(水)にScientific Reports誌にオンライン掲載されました。

論文名:Nonstationary footprints of ENSO in the Mekong River Delta hydrology(エルニーニョ南方振動がメコンデルタの水循環に与える非定常的な影響)
URL:https://doi.org/10.1038/s41598-022-20597-7

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