触媒で分子をチューンアップ ~炭化水素の結合を組み換えて付加価値を高める不斉触媒~
- 安価で入手容易な炭化水素のもつ結合を組み換えて、付加価値の高いキラル有機分子へと一工程で変換する不斉触媒を開発した。
- 触媒が化学反応を進行させる様子を、計算科学によって明らかにした。
- 豊富に存在する炭化水素を、医薬品や農薬などの健康で文明的な社会を支える有機分子へと効率的に変換する化学技術への展開が期待できる。
日本学術振興会科学研究費助成事業の新学術領域研究「ハイブリッド触媒」において,東京大学大学院薬学系研究科の金井 求 教授と奈良先端科学技術大学院大学研究推進機構研究推進部門の畑中 美穂 特任准教授らのグループは,安価で入手容易な炭化水素の結合を組み換えて,医薬品や農薬といった付加価値の高い分子の合成に有用な分子へと一工程で変換する不斉触媒を開発しました。
炭素原子と水素原子のみから構成される炭化水素は、燃料としても使われる安価で入手容易な有機分子です。炭化水素には触媒への目印や反応の起点となる酸素原子や窒素原子がないため、化学反応性に乏しく、反応したとしても制御が困難です。実際、炭化水素を原料として医薬品や農薬などの複雑な構造をもつ有機分子を選択的につくる触媒は、これまで非常に限られていました。
本研究グループは、炭化水素の炭素-水素結合を切断して、同じ分子のなかの元とは別の位置に炭素-水素結合を選択的に移動する触媒を開発しました。炭化水素の結合を組み換える本触媒を用いることで、医薬や農薬といった付加価値の高い分子を合成するために有用なアレンとよばれる分子を高い選択性で合成することができました。さらに、この触媒がどのように化学反応を進めているのかを計算科学を用いて解明しました。
本研究成果は、安価で豊富な炭素資源を価値の高い分子へと効率的にアップグレードする化学プロセスへの応用が期待されます。
本研究成果は、2019年1月10日午前11時(米国東部時間)に「Chem」のオンライン速報版で公開されました。
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