易分解性で水に可溶なN-メチル化ナイロンの開発に成功~忘れ去られたポリアミドの親水性材料への新展開~

【ポイント】
- 難溶性の化学繊維であるナイロンが、水溶性の高分子材料に変身。
- シンプルなナイロンのN-メチル化が親水性のカギとなり、LCST型相分離を実現。
- オンデマンドに分解可能な性質を持ち、環境負荷の低減に貢献する新素材として期待。
【概要】
北海道大学大学院理学研究院の佐田和己教授、松岡慶太郎助教らの研究グループは、柔らかく水に溶ける親水性材料として「N-メチル化ナイロン」を開発し、従来”硬くて水に溶けない化学繊維”として知られていたナイロンの常識を覆す、新たな応用展開を実証しました。
ナイロンは1935年にウォーレス・ヒューム・カロザース(Wallace Hume Carothers)によって開発された世界初の化学繊維であり、衣類や傘、釣り糸など、現代社会に欠かせない素材として広く利用されています。これまでのナイロン研究は、繊維としての高い機械的強度や難溶性を追求してきました。これらの特性は、主鎖に含まれる第二級アミド結合が分子間で強固な水素結合ネットワークを形成することにより発現します。
本研究では、このアミド結合に疎水性のメチル基を導入することで水素結合を切断し、高分子に親水性を付与するという逆転の発想により、ナイロンを親水性高分子として再構築しました。N-メチル化ナイロンは、カロザースの初期特許に記載されている古典的な高分子ですが、繊維用途に不向きとされ、これまでほとんど研究されてこなかった”忘れ去られた高分子群”です。
研究グループは、N-メチル化ナイロンの水溶性に着目し、LCST型の相分離挙動を示すことを明らかにしました。また、水中で液滴を形成して蛍光分子を取り込むなど、バイオマテリアルとしての可能性を示しました。加えて、酸性条件下では分解する性質も確認され、使用中は安定しながら、必要に応じて分解できる「オンデマンド分解性」を持つ環境調和型素材としての活用も期待されます。今回の成果は、温故知新の精神に基づき古典的高分子を90年ぶりに再評価することで、忘れ去られたナイロンの新たな可能性を引き出すものであり、新しい機能材料の創出につながることを示しています。
なお、本研究成果は、2025年6月27日(金)公開のMacromolecules誌にオンライン掲載されました。
論文名:N-Methylated Nylons as a Novel Library of Degradable Hydrophilic Homopolymers(N-メチル化ナイロン: 分解可能な新規親水性高分子ライブラリ)
著者名:菅野明梨 1 、稲葉奈月 1 、松岡慶太郎 2 、佐田和己 2 (1北海道大学大学院総合化学院、2北海道 大学大学院理学研究院)
雑誌名:Macromolecules(米国化学会が発行する高分子科学の専門誌)
DOI:10.1021/acs.macromol.5c01313
公表日:2025 年 6 月 27 日(金)(オンライン公開)
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