日本の「湯の華」は多様な植物を化石にしていた!~信州の秘湯、中房温泉~

【ポイント】
- 国内の「珪華(シリカ質の湯の華)」を対象とした初の包括的な地質調査を中房温泉で実施。
- これらの珪華が小規模な温泉と豊かな森林が共存する日本独自の環境でできることを発見。
- 温泉周囲の多様な植物が珪華に取り込まれ化石となるシステムを世界で初めて報告。
【概要】
北海道大学大学院理学研究院の伊庭靖弘准教授、産業技術総合研究所の久保田彩博士、エディンバラ大学の谷口 諒JSPS海外特別研究員(2024年度北海道大学大学院理学院修了)、北海道大学理学院博士後期課程の植田知幸氏は、日本の温泉で生じる「珪華」を対象とした詳細な地質調査を行いました。その結果、国内の珪華には、これまで知られてきた他国の珪華には類を見ない固有の岩石学・堆積学的特徴が存在し、温泉周囲の多様な植物が化石として取り込まれていることが明らかになりました。
珪華は取り込んだ生物化石を数10億年もの長期間にわたって保存できる優れた媒体として注目されています。従来、その形成プロセスや化石保存様式は、米国イエローストーン国立公園など海外の温泉環境で研究されてきました。しかしながら、これらの珪華産地では巨大な地熱活動と熱水噴出によって生物多様性の著しく低い荒野が広がっています。そのため、珪華に取り込まれる生物も高温など過酷な環境に適応したごく一部の微生物・植物に限られており、化石として珪華に保存されうるのは極めて居所的かつ特殊化した生物群集のみだと考えられてきました。
本研究で対象とした長野県中房温泉地域に代表される国内の珪華産地では、海外とは異なり多数の温泉が散発的に滲出し、珪華を形成していました。これらの小規模な熱水流や珪華は周囲の森林を破壊することはなく、むしろ近接して共存しています。これにより、針葉樹、広葉樹、コケ類など日本の森林元来の多様な植物が珪華に取り込まれ、化石化されつつありました。本研究による日本独自の珪華堆積システムの発見は、優れた化石保存媒体として多くの重要な進化イベントを記録している地質時代の珪華について、その堆積環境や生態系の復元に新たな洞察を与えるものです。
なお、本研究成果は、2025年8月5日(火)公開のPalaeogeography, Palaeoclimatology, Palaeoecology誌にオンライン掲載されました。
論文名:Modern silica sinter deposits from an island-arc setting and their potential for fossilizing plants(島弧環境における現生珪華堆積物とその植物化石保存ポテンシャル)
URL:https://doi.org/10.1016/j.palaeo.2025.113176
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